社内恋愛をしている同期の久美子と頼樹(よりき)。
お互い仕事が忙しく、会う時間はあまりない。
「でも自分たちは大丈夫」なんて思っていたのは久美子だけだった?!
ある日、頼樹を狙う、自分とは正反対の女が現れ久美子の心は乱されるのだった。頼樹はどちらを選ぶのか?!
負けられない女たちの戦いが、今始まる……!
vol.1:付き合って5年の彼が言った「最近、女忘れてない?」。その真意とは!?
仕事も恋愛も中途半端な女になんて負けない
「おっ!今日は雰囲気違っていいじゃん。」
久しぶりのデートの待ち合わせで開口一番、頼樹は言った。忘れていたが、彼は”ちゃんと褒めてくれる男”なのだ。褒められたのが久しぶりということは、やはり手を抜きすぎていたのかなと、久美子は反省した。
だが今日の久美子は違う。メイクはベース作りにたっぷり時間をかけて肌に艶を出し、久しぶりにスカートを選んだ。それに、先週から使い始めたパンテーンの「トリコン」のお陰か、しばらくなかった艶が髪に戻ってきたように感じる。
―あの女にも、十分負けてないでしょ。
隣を歩く頼樹の横顔をチラリと見上げながら、先日から気になっている秘書の山崎奈緒の顔を思い浮かべて軽く毒づく。
―あんな見た目だけの女、どうせ5年後も、仕事も恋愛も中途半端なままに決まってる。
総合職として働く久美子は、仕事へのプライドも高い。さらに以前よりも綺麗な髪を手に入れ、いつも以上に強気になっていた。
やはり髪に艶がでると、一気に雰囲気が変わる気がする。久美子は上機嫌になり、久しぶりに頼樹と腕を絡めた。
今日は品川の水族館でデートなのだ。
水族館は、付き合い始めて間もない頃に一度だけデートで訪れた。まだ、手を繋ぐだけでも楽しく、少しでも長く一緒にいたいと思っていた頃だ。
その当時を思い出し、最近のマンネリ脱出を図るべく、久美子が提案したのだった。
人ゴミとは無縁の、少し幻想的な館内。水が揺らめき魚が舞うように泳ぐ、そんな中手を繋いで歩けばあの頃の気持ちがよみがえる……それを狙っていた。
「そういえば、全然行ってなかったな」と言って頼樹も乗り気で、久美子の思惑通り水族館デートを楽しんだ。
好きな人に喜んでもらえるのは、素直に嬉しい
夕食は頼樹が予約していた『アトリエ・ド・アイ』へ向かった。
―今日は頼樹も、いつもよりも楽しそう。
テーブルに案内され、正面に座る頼樹は、いつもよりも笑顔が多くテンションも高い。
これは確実に、今日のイメチェンと水族館の効果だ。
自分がちょっと頑張ったり工夫しただけで、好きな相手にも喜んでもらえるって、なんてハッピーなんだろうと、久美子も嬉しくなった。
まずはシャンパンで乾杯して、早速次のデートの話しで盛り上がる。
「ねえ、今度は映画見に行こうよ。来月はすこし落ち着きそうだから、週末に思い切って京都に行っちゃうのもありかな。」
「ちょうど紅葉の時期じゃん、行きたいね。」
頼樹も賛同し、久々の旅行の計画まで持ち上がった。
真っ赤に色づく京都の街を、二人並んで歩く姿を想像する久美子。山崎奈緒の事を気にしていた自分が、なんだか馬鹿らしくなるほど穏やかな時間だ。
だが、そんなひと時も束の間だった。
次のワインを選んでいると、久美子たちのテーブルの横をゾロゾロと4人の女性たちが案内されてきた。その中の一人を見て、久美子の顔は強張った。
あの山崎奈緒がいたのだ。