SPECIAL TALK Vol.24

~売れる理由はデータに現れる。売れない理由は現場でしかわからない~

洋服から靴へ。卸から小売りへ。『ABC-MART』の転換期とは

金丸:「ホーキンス」といえば、『ABC-MART』躍進の立役者ともいえます。C.W.ニコルさんのCMは非常に印象的でした。

野口:あのCMは、話題になりましたよね。弊社では1986年から「ホーキンス」の総代理店を務めていて、95年に商標権を取得しました。翌96年には、同じくアメリカのブランド「VANS」の商標も取って、徐々に洋服の卸から靴の卸へ比重を置くようになっていったんです。

金丸:でもその頃は、靴よりも洋服のほうが、まだ売上げは大きいですよね。

野口:そうですけど、洋服は競争が激しくて、粗利はそこまで高くありませんでした。洋服というのは、生産こそ難しくないのですが、アイデアやタイミングを間違えると、一気に在庫を抱えてしまいます。一方、靴は、生産自体が難しく新規参入も難しい。そこに勝機ありと考えたのです。

金丸:それで社内では、どのような決断があったのですか?

野口:「洋服をやめて、靴に資本を集中させる」という決断です。

金丸:それはすごい決断ですね。反対の声も大きかったでしょう?

野口:「これだけ洋服の売り上げがあるのに」と驚きはしましたが、会社の決断に反対することなどありませんでした。それよりも次の決断は会社の運命を決定づける大きなものになりました。2001年には靴の卸もやめて小売に特化しようと決めたのです。その頃は金融危機で、銀行、証券、大手小売チェーンの倒産等もあり、資金回収に不安を感じている時でしたので、このまま卸売を拡大していくことはリスクになると創業者の三木は考えたのです。また、当時、卸先が数千店舗あったのですが、自分たちが考えるブランドイメージに合った売場を作ることができなかったこともこの決断に大きく影響しました。どれほど交渉してもやはりそこは相手の土俵ですから、要望通りには販売してもらえない……。そんなジレンマを抱えていました。

金丸:そういった複合的な要因が重なって、靴の小売りという現在の業態に行きついたのですね。いったいどれくらいのスピードで業態変換を図ったのですか?

野口:決めてからは、一気に切り替えていきましたね。私自身も卸の責任者から、小売りの責任者になりましたし、本社の休みも土日から平日になって、土日は社員みんなで販売をしていました。そういう大転換期に、創業者が常におっしゃっていたのが、「悪くなってから動くのは、選択じゃない。それは決断とは呼ばない」ということでした。

金丸:おっしゃるとおりです。予兆を感じて、すぐに動くことができた。その決断の先見性は、今の御社を見れば明らかです。

野口:ピーク時300億あった卸の売上げを切り捨てるわけですから、まさに英断といえます。こうして金融危機も無事に乗り越えることができ、2002年には100店舗を達成しました。会社名も「株式会社エービーシー・マート」に変更して、東証一部上場も果たしました。

金丸:まさにターニングポイントといえる時期に、野口社長は先陣を切り、会社の成長を支えてこられたのですね。

週末は社長自ら店頭に立つ、そこでしか見えない売れない理由

金丸:04年には常務取締役、07年に代表取締役社長に就任されますが、ご自身のことを、どのようなタイプの社長だと思っていますか?

野口:自分で言うのもなんですが、実務派な部類だと思います。また、戦略を立てるのは好きですね。何か物事を決めるときも、これしかないと思うのではなく、10個ぐらいアイデアを出して、どのアイデアがベストかを消去法で考えていきます。

金丸:それは私も同じです。あらゆるリスクを消し込んでいくのは、重要ですよね。

野口:それに、やはり現場を見ることを心掛けています。今でも週末は必ず店頭に立っていますし、私だけでなく、本社の社員全員が店頭に立って販売をしています。

金丸:野口社長も実際に、靴を売っているのですか?

野口:もちろんです。週末ごとに違う店舗に行っていますよ。お客様と直に接するのは、すごく重要なんです。というのも、データだけを見ても、販売だけをしても、そこにはズレが生じます。データを見れば売れ筋はわかりますが、売れなかった理由は、現場にしかない。そこが一番のポイントなんです。〝なぜお客様が選ばなかったのか〞という。現場に立てば、消費者が手に取るけど購入に至らない商品がわかります。実際にお客様と会話することで、なぜ買わなかったのかという理由が見えてくる。それに都心の店で売れていて、郊外の店で売れていなければ、その差分にチャンスがあるということもわかります。マクロとミクロの双方から見ることで、売れ筋の商品が見極められるのです。

金丸:社長をはじめ、本社の社員が現場に立つことを徹底しているというのは、まさに『ABC-MART』の強みですね。POSは売れた商品のデータであって、売れない理由は、現場にしかない。非常に説得力があります。

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