日曜日
On Sunday
PM 11:30
レースの余韻に浸りながら、アフターパーティーの会場である『Amber Lounge』へ向かう。
「すごく興奮したよ。最後の花火もすごく綺麗だったね」
背中が開いた黒色のワンピースにクラッチバッグを持ち、興奮する真美の隣で、何となく襟を正して会場に向かう。
会場に入ると、さまざまなドレスで着飾った煌びやかな女性陣と、パーティー慣れしたスマートな男性陣で溢れていた。“大人の社交場”という真美の言葉がまさにぴったりの表現だ。数ある格式高いアフターパーティーの中でも、とくにここは有名だ。
「真美さん。こっちです。紹介しますよ」
『1-Altitude』から『Amber Lounge』へ向かう途中で上手く巻けたと思っていたのに、案の定慎吾はすでに会場に先回りしていた。こいつの真美に対する執着心に思わずゾッとする。
会場は有名アーティストの登場で盛り上がっていた。そして女性陣からの大歓声の先にレースを終えたレーサー陣がいた。戦いを終えたレーサーは男から見てもかっこいい。
「アフターパーティーも最高! レーサーの人たちってなんであんなに男らしいんだろう」
盛り上がりを増す会場とは裏腹に、どう話を切り出すか迷っている修二はどんどん無口になってしまう。
「真美さんにだけ、とっておきの世界をお見せします」
そう言って慎吾が真美の手を握った。もう限界だ。
「真美、ちょっと話があるんだけど」
慎吾の気持ちに気づいていないはずはない。なぜ真美はハッキリと慎吾を断らないのだろうか。焦る気持ちとともに、怒りさえ覚えてきた。本当は、ちゃんとしたシチュエーションで言いたかった。花束と指輪も用意したかったが、気持ちを伝えるのはいましかない。
「これからもずっと一緒にいよう。毎年、シンガポール・グランプリを観に来よう」
自分なりの決死のプロポーズだった。しかし、盛り上がる会場内の音にかき消され、真美が「え、なんて言ったの?」と聞き返してくる。
「結婚しよう!」
驚いてなにも言えない真美を横目に、なぜか慎吾は薄気味悪い笑みを浮かべていた。