斉藤美咲、埼玉県出身の25歳。外資系のジュエリーブランドのPRとして華やかな日々を過ごす。恋にもおしゃれにも手を抜かない、自他ともに認める「キラキラ女子」美咲だったが、“理想の彼氏“である翔太との失恋をきっかけに、大きく自信を喪失してしまう。
自暴自棄気味で見失いかけていた自分を見つめ直し、少しずつ女子力を取り戻していく美咲。コンパで出会った“圏外”成澤と思いがけずデートをすることとなるのだが、デートの当日、美咲のコンプレックスが原因で未だ溝が埋まらない父が「意識不明」との連絡が入る……!
第1回:恋愛レシピ:傷心のキラキラ女子、美咲。失恋の特効薬はやっぱり“お食事会”!?
第2回:恋愛レシピ:大ハズレお食事会の理系地味男子は、実は白馬に乗った王子様?
久しぶりの父親との再会。思わず出た言葉は……
― 意識不明って、どういうこと?
せっかくのドライブ&映画デートに突然訪れた"父親が意識不明"という連絡。ついこの間、私を心配して色々送ってくれたばかりだというのに……。美咲は呆然とした。
「斉藤さん?大丈夫?とにかく、お家に行こう」
そういって運転席の成澤は、車を一旦路肩に止め、泣きじゃくる美咲にそっとハンカチを差し出した。
「でも……。どうしよう、意識不明って、どうしよう」美咲は、気が動転して何も考えられなかった。
「大丈夫、落ち着いて。ここから首都高に乗ったらすぐだから」
成澤はそれまでの穏やかな調子から一変してスピードを上げ、美咲の実家へ向かって車を飛ばした。
成澤の運転のおかげか、ほどなくして実家の定食屋が見えてきた。
「うち、ここなの……。ちょっと待っていてね」
ガラリと開けた店内で美咲が見たのは、腕に軽く包帯を巻いた元気そうな父の姿だった。
「もうなによ!驚かせないでよ!どういうこと!?」
「だってお姉ちゃん、こうでもしなきゃ帰ってこないじゃん」妹の知咲がいたずらっぽく笑った。
「美咲、相変わらず威勢がいいな。元気にしてたか?」
美咲は安堵感でへたり込んだ。
妹にはめられた形で父と再会した美咲だったが、父の年老いた姿を見て、喧嘩をする前の頃の想い出が頭をよぎる。そして、料理や礼儀など父に教えてもらったことの全てが、今自分の中で生きていることを痛感し、心から感謝を覚えた。
「お父さん、あの筑前煮の作り方教えて。私も作れるようになりたいの」
美咲がそういうと、父は心底嬉しそうに笑い、これまで確実に存在していた壁がふっと消えたかのように、ふたりは笑顔で顔を見合わせた。
再会の余韻も束の間。話は思わぬ方向に……
「……あ!!! いけない! 成澤さんのことを忘れてた!」
「え?! お姉ちゃん、彼氏~?」すぐさま茶化しだしたのは、やはり知咲だ。
「そんなんじゃないよ、全然、本当に!!絶対違う!ここまで急いで連れて来てくれただけ、私が急いでいたから!」
「それならなおさら、御礼しないと。呼んできなさいよ」と母も好奇心の塊になっている。
「絶対イヤ!」といっていると、いつの間にか知咲が、家の前で止まっている車のなかの成澤に話しかけている。
「ちょっと〜!!!」入り口で赤面しながら叫ぶと、父も出てきてしまった。
「お!うちの車と一緒じゃないか。趣味がいいな。知咲〜!中にお連れしなさい」
どうやら成澤は美咲の予想しないところから父に気に入られてしまったようだ。
その後の展開はこうだ。
最初は「まあ、お茶でも飲んでいきなさい」と言っていたのだが、気づけば「せっかくだから、夕飯でも食べていきなさい。」とすり替わっていた。
意固地になって「いや、もう絶対帰る!」と必死に抵抗するも空しく、「さっき筑前煮の作り方を教えてって言ったよな?」という言葉に反撃できなくなってしまい、結局、夕ご飯を共にすることになったのだ。