食卓に着いた成澤の反応は?
所狭しと並んだ夕食に成澤は一口ごとに感動して、ひたすら父の料理を褒めた。
「いや〜、この深みのある出汁、東京でもなかなか口にできないですよ。こんなに美味しい筑前煮、生まれて初めてです。美咲さんが手伝ったと思うとなおさらです」
「また来なさいよ。いつでも作ってあげるから」父の顔がほころんでいる。
「毎日来たいくらいです」とすかさず応じる成澤。
「本当にふつつかな娘ですけど、宜しくお願いしますね」と調子に乗る母。
「お姉ちゃ~ん、お・め・で・と」と、かぶせて冷やかす妹。そして遂にキレる美咲。
そんな偉大なる昭和的団欒に美咲は心の底から安心感を覚えた。もう何年も味わっていない感覚だった。そして、違和感なく輪の中に溶け込んでいる成澤を傍から眺め、美咲は自分の胸が高鳴っていくのを感じていた。
決して出しゃばることなく、かといって彼氏ヅラするわけでもなく、うまく美咲をたてながら父の話を聞いている。彼の丁寧な箸使いや食事の所作は見とれるほど美しく、確かな人間性を感じさせた。
夕飯の時間も終盤に差し掛かった頃、すっかり上機嫌になり「泊まっていけ」という父の誘いを振り切り、ようやく帰路に着く。すでにもう22時をまわっていた。
帰りの車内でも、実家での団欒の延長線上にある居心地の良さを覚えた。そんな空気感に気持ちを委ね、今まで誰にも明かさなかったことを素直に話し始めた。
「私ね、定食屋の娘っていうのがずっと恥ずかしかった。だから最初に会ったときウソついたの。実家は和食割烹やってますって。父に反発して大学で上京してから、ほとんど会ってなかったんだけど」
「恥ずかしがる必要がどこにあるんですか。あんなに暖かくて美味しいご馳走に囲まれて育ったなんて、美咲さんのことが本当に羨ましいですよ。なんというかうまく言えないんですけど、すごく……すごく素敵だと思いました」
朴訥だが誠実な成澤の言葉に、コンプレックスだった自分の生い立ちを素直に受け入れられそうな気持ちになった。そして名前で呼ばれていることも、いつの間にかナチュラルに受け入れていた。
その日の夜
帰宅した美咲は、いつものマイレシピを施しながらふと思い出す。
— そういえば、このシャンプー、『髪に、ごちそう』ってキャッチコピーだったような……。
「ということは、私はカラダも髪も、ご馳走だらけでできているってことね」
美咲は、今日の帰りの成澤との会話を心の中で思い返しながら、にやけながら独り言をつぶやいた。
お風呂から上がると、LINEのメッセージが届いていた。
— 成澤さんかな?
ちょっと浮ついた気持ちでメッセージを確認すると、意外な差出人の名前が目に入り、美咲の心臓はドクンと大きく脈を打った。