東京いい街、やれる部屋 Vol.4

大人の魅力溢れる40代男の、千鳥ヶ淵の絶景を拝める異空間な部屋

前回までのあらすじ

デートした男たちのライフスタイル研究が趣味の、保険会社営業職の奈々(28歳)。この連載では、過去に奈々が遊んだ様々な男性が選んだ街と部屋について、語らっていく。

今までに麻布台在住戦略コンサルタントや、京大卒のファッションセンスに難のある医者東銀座在住CMプランナーの部屋への訪問を思い出してきた。

26歳の頃、奈々は思いがけず本気の恋に落ちてしまう...?


不覚にも引き込まれる、「本物」の大人の男の魅力


少し前まで、26歳なんてオバサンだと思っていた。しかし実際になってみれば、ある程度慣れた仕事は余裕も出て楽しいし、男にも全く困らない。むしろ今が一番モテる時期なのかもしれない、と奈々は思う。

どこへ呼ばれても奈々は主役のような扱いをうけ、アプローチしてくる男はいくらでもいた。たぶん、今が自分の絶頂期なのだろう。男たちは揃って奈々を好奇の目で見つめ、ご機嫌をとろうとあくせく勝手に働くのだ。

目下、奈々が一番気に入っている英治は投資家で、かつ幅広くレストランチェーンを手掛ける年上の男だった。成功者だからといって派手でも気取るわけでもなく飄々とした雰囲気で、18も歳が離れていながら同年代のように会話を楽しめるのが魅力だった。

彼のライフスタイルは海外と日本を行き来する自由なもので、東京にいる期間は頻繁に奈々と会っていた。「40まで死ぬほど働いたから、もう働かない」などと言い、特に多忙な様子も見せない英治は、奈々の都合に合わせランチタイムに職場近くに現れたり、またお互いの友人を交えて何人かで食事を楽しむこともあった。

彼の馴染みの、アットホームな割烹料理屋に連れて行かれたときも

「今日これ持ってきたんだけど、飲ませてもらっていいかな?」

と、サクっとアンリ・ジローの琥珀色のシャンパンを持ち込み、カジュアルな食事にヒネリを効かせてくれる。このセンスも最高に奈々好みであった。

本物の大人の男の魅力、というのを奈々は初めて知った気がする。もちろん財を手にした中年の男は腐るほど周りにいたが、英治のように品とユーモアを備え、そしてあからさまな下心を出さないまでも、適度に奈々の自尊心をくすぐり生活を楽しませてくれる男はいなかった。

英治はいつもラフな格好でコテコテの金持ちには決して見えないのに、口を開けばそこには「一流」でしか知り得ない知的さが垣間見える。

それに、英治とは共通の趣味として「読書」があった。奈々は昔からなぜか重苦しい小説が好きで、それを語り合える人間は意外と周りに少なかった。ドフトエフスキー、遠藤周作、モーム。英治とは好みが似ていた。そして英治は、まだお互いに読んでいない小説を毎月一緒に読みその感想会をしようなどと言い、その都度奈々を粋な場所に連れ出してくれた。

今さら不倫は負け組?悪友は忠告を繰り返すが...


「奈々らしくないよ。分かってるよね?私たちもう26歳なんだから、今さら不倫なんて完全に負け組だからね。」

親友かつ悪友でもある美羽に、何度か忠告された。

わかっている。だからこんなに長い期間デートだけで留めているのだ。普段の奈々であれば確実に味見済みだが、一歩間違えれば収集のつかなくなりそうな不穏な気配を自分でも感じていた。

それでも、好意を持ちつつ趣味だけで繋がる関係は奈々にとって心底楽しく、「大人の男」の安心感もただ心地良かった。「そんなんじゃないから大丈夫、オッサンなんて興味ない!」と、美羽には必要以上におどけてみせたが、他の男たちは揃って味気なく感じ、興味は失せて行った。

「一緒にゆっくり読書しようよ。」

英治も英治で、奈々に一歩踏み込むようなそぶりや行動やはしなかったのだが、ついにその節目に来たのだと思った。

「部屋、借りたんだよね。」

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