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  • シンガポール・ラブストーリー Vol.1

    シンガポール・ラブストーリー:34歳・失恋女、傷心のひとり旅で思わぬ恋の予感

    チャンギ国際空港の外に出ると30度近くある外気を一気に感じて、久しぶりの暑さに肌がゆるみ気持ちがいい。空港から市街地まではタクシーでたったの20分ほど。アジア各国を行き来する世界中のビジネスマンのハブになっているだけあって、さすがの近さだ。

    ホテルまで向かう道中は、ビルが立ち並ぶ大都会なのに想像以上に緑が多かった。道路の両端に椰子の木や常夏らしい多彩な植物が植えられ、まるで巨大な公園の中を走っているよう。

    ホテルに着くと、時刻はまだ朝の7時。少しだけ仮眠して美術館に行こうと思ったけれど、気づいたら昼前まで寝てしまった。もう11時。再度LINEのチェックをするけど健二さんからの返信はないまま。ぼうっとする頭を覚ますためにテレビでBBCをつけ、シャワーを浴びてメイクを始める。傷心のときこそ、バシッと綺麗にしていないとやってられない。

    ひとりだし気張ったレストランではなく、“ホーカー”と呼ばれる世界中の料理が揃う屋台街に行くことにした。オフィス街のど真ん中にあるホーカーに着くと、そこは色々な肌の色をしたビジネスマンで溢れかえっていて、みんな時間を惜しむようにササッと昼食を食べていく。東京より歩くのも心なしか速い。恋愛で悩んでふて寝するなんて効率の悪いことはせず、終わったことはさっさと忘れ、朝の6時からジョギングをしそうな人たちである。

    シンガポール金融街のすぐ側にあるラオパサのホーカーは、ランチタイムは近隣のビジネスマンで溢れかえる。中華、タイ、和食、メキシカンまで、世界中の料理の屋台約70軒がズラリと並び、どこも1食5〜7ドルほど

    突然の出会いは、まさかの“ホーカー”で!

    寝起きだったからスープが飲みたくて、地元の人に人気があるというフィッシュボールの入ったライスヌードルを購入した。ところが、さっきまで席に余裕があったのにヌードルを買っている間に席が埋まってしまった。うろうろしているとインド人と日本人らしき3人組のテーブルに空きがあって、仕方なくそこで相席をする。

    30代前半に見える日本人らしき男性と目があったので、私はつい会釈をして彼の隣に座った。向こうも軽く会釈を返し、その仕草は日本人そのものだった。英語で世間話をする彼らの隣で、私はガイドブックをパラパラと眺めながら熱いスープを飲む。フィッシュボールは日本の魚のすり身より弾力が強くて、プリプリ、いやもっとブリンブリンしている感じで美味しい。

    先に彼らが食事を終えて席を立つ時、隣にいた日本人男性が

    「観光ですか?」

    と突然話しかけてきたので、私はびっくりしてフィッシュボールがポンと出てしまいそうになり焦った。口を押さえてうなずくとその人は

    「もしも何か困ったことがあったら」

    と会社の名刺を一枚出し、テーブルの上に置いた。誰もが知っている大手総合商社の名刺だ。私が何も言えないでいるうちに彼は立ち去り、名刺を渡したことをインド人の同僚にからかわれながら歩いていった。

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