リアル働きマン葉子!黒革の編集手帳 written by 内埜さくら Vol.17

リアル働きマン葉子!東京と寝たアラフォー女が掴んだ幸せ……仕事も育児も恋愛も

前回までのあらすじ

食雑誌である『月刊東京ウォーキング』の編集者・高嶋葉子(35)は、この道10年目の中堅、未婚、彼氏アリ。誠実で愛すべき 年下彼氏である橘 京太郎(28)は、年収320万円。

葉子は京太郎が事故にあったことを知らないまま、妊娠が発覚。しかし京太郎の父親の策略によって引き裂かれてしまう。

そんななか葉子に思いを寄せる才島が体調を崩した葉子のもとへ、お見舞いにくる。これ以上優しさに甘えられないと、意を決して、葉子は妊娠していることを告げる。

前回:リアル働きマン葉子!戦闘モードな仕事&恋愛に疲れたアラフォーが最後に選ぶのは?!

 妊娠がわかってからおよそ4年後。葉子が出産した男児は3歳になり、葉子は働きマンとしての人生を邁進(まいしん)していた。

 とはいっても出産前のように、編集部に泊まり込んで徹夜で作業をしたり、休日を返上して働き倒すワークスタイルからは、いまは卒業している。

 妊娠初期だった当時、葉子は働きすぎて切迫流産と診断されたため、有給休暇を消化して安静に努めていた。だが、休暇をすべて使い果たすころになっても体調が安定しない。そこで、いまは母体を大切にすべきだとやむなく辞職を申し出たところ、編集長に引き止められたのだ。

「子供が産まれて落ち着いたら、いつでも戻ってきなさい。子育てが一段落するまでは、ゆるやかなペースで働けばいいじゃないか。またいずれ高嶋君にはバリバリ働いてもらわなくちゃ、こっちが困るんだよ」

 雑誌の編集者になって10年、葉子はきめ細かく完璧を求める仕事への姿勢をつらぬき続けてきた。『東京月刊ウォーキング』を手がける前にいた、コスメ雑誌を扱う出版社では、葉子1人のみが年若い新人という理由だけで壮絶ともいえるイジメにあったが、自分のことをいじめながらも仕事をパーフェクトにこなす先輩の背中を、葉子はしっかりと心に刻み込んでいたからだった。

 たとえば雑誌の表紙にタレントを起用した際、“服クレ”と呼ばれる、タレントが着用した衣装のクレジットを記入するのも、編集者の仕事の1つである。『東京月刊ウォーキング』はラグジュアリーなレストランを紹介する雑誌という特性上、表紙の衣装には海外の老舗メゾンを採用することが基本だが、そういったブランド名に頻繁についている、ナカグロと呼ばれる「・」やスペースが、全角か半角かの違いを、葉子はすべて記憶した。

「ルイ(全角ナカグロ)ヴィトン」「エスカーダ(スラッシュ)エスカーダ(半角ナカグロ)ジャパン」「エンポリオ(半角スペース)アルマーニ」……数え上げればきりがないが、何万とあるブランド名のそれらすべてを記憶するのは、至難の業だった。

 だが、自分をいじめ抜いたコスメ雑誌の先輩編集者は、徹夜2日目の午前3時にもかかわらず、新人だった葉子のミスをあっさりと指摘したのだ。

「『ラルフ ローレン』は、全角スペースじゃなくて半角スペース! 頭が悪い部下って、仕事の邪魔しかしないのね!」

 言い方はきつかったが、眠さと疲れが極限に達しているなか、すばやくミスを見つけた先輩の緻密な仕事ぶりに、葉子は驚きとともに尊敬を覚えた。そして、葉子は自分に宣言したのだ。いつか、この先輩を追い抜こうと。追い抜いて、後輩をいじめることなどしない先輩になろうと。

 決意後の葉子は、人の何倍も働くことを苦としなかった。激務で倒れた同僚の仕事を引き受け徹夜をした経験も、一度や二度ではない。すべては誰よりも仕事ができるようになるためだった。

 そうしたいままでの粉骨砕身してきた仕事への姿勢が、編集長に引き止められる形で結実したのだ。

 編集長の言葉を聞いたとき、葉子は「誰よりも本気で真面目に仕事をしていれば、必ず誰かが見ていてくれるものなんだ」と感涙し、申し出をありがたく受け取ることにした。

【リアル働きマン葉子!黒革の編集手帳 written by 内埜さくら】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ