リアル働きマン葉子!黒革の編集手帳 written by 内埜さくら Vol.13

リアル働きマン葉子!自宅で鉢合わせした本命彼氏とキープ男……

前回までのあらすじ

食雑誌である『月刊東京ウォーキング』の編集者・高嶋葉子(35)は、この道10年目の中堅、未婚、彼氏アリ。

誠実で愛すべき 年下彼氏である橘 京太郎(28)の未練たっぷりなモトカノである槇本梨沙は、あの手この手で、ふたりを別れさせようとする。

そんななか、大学時代の友達が紹介してくれた、新進気鋭の若手実力派コンサルタントとして、テレビや経済誌などの常連になりつつある才島孝央から、「結婚前提の」交際を申し込まれ、葉子の心は揺れる。

そしてついに、京太郎の自宅に押し掛けた梨沙によって、衝撃の事実が暴露されてしまう。

前回:リアル働きマン葉子!恋敵が告げる「彼、他の女とキスしたのご存じ?」

「家のなかで話そう」

 自分を説得しようとする京太郎を振り切り、葉子は弱々しい足取りで中目黒駅までの道のりをひとり、歩きながら考えていた。

 男が女より7歳年上のカップルなら問題視されることもないのに、逆の立場に置かれる状況がこんなにも辛いとは――。自分は京太郎という、年下の男の未来を奪ってしまうような存在なのだろうか。年齢差など、ふたりの間に愛情がかよい合っていれば、乗り越えられる問題ではなかったのか。そんな、出口の見えない感情の狭間をさまよい続け、抜け出せずにいた。

 槇本梨沙が当てつけのように言った、京太郎と倉田紗耶香がキスをしたという件は、葉子にとっては別れを言い出す引き金ではあったが、決定打ではなかった。たとえそれが真実であったとしても、自分以外の女とキスをしたぐらいで激昂し、後先考えずに別れを告げるほど、葉子は子供ではないからだ。

葉子に別れを決意させた発端は、京太郎の父親から言われた言葉――心に刺さったまま抜けずにいる棘であった。

 あれは確か、京太郎が「来年あたり、親父の会社に入るかもしれない」と言った後で、大学時代の親友である松川亜由美とランチをする前のことだ。

編集部に電話をかけてきた京太郎の父親と、葉子はグランドハイアット東京にある『旬房』の個室で会う約束をした。そして、ふたりきりの身の置きどころのない空間で、頭を下げられたのだ。

「京太郎とは別れてほしい。本当に申し訳ない」

 その場で葉子は、すでに京太郎から聞かされていた、二代目となるはずの長男が結婚後5年間、子供に恵まれないという、会社経営者としての父親の不安を吐露された。現状に甘んじたままでは代々、実子に継いでもらう自身の願いが潰(つい)えてしまうこと。

 「あの子は自分のことを話したがらないもので」と前置きし、京太郎の身辺調査をしたところ、年上の恋人がいると把握したこと。だが、京太郎の伴侶となる女性には、できうる限り多くの子孫を残してもらい、そのなかから経営者の資質を持つ子を手塩にかけて育てたいこと。もちろん、女性を“産む機械”とは考えていないし、かなわない夢かもしれないが、まだ可能性を捨てたくはないこと――。
 つまりは、自分よりもっと年若い女性を京太郎の伴侶に迎え入れたい、ということだ。葉子にしてみれば年齢という、取り戻せない不条理を突きつけられたことになるが、だからといって京太郎の父親を憎み嫌う気持ちは起こらなかった。一生“働きマン”を自認している自分にも、世の中になにか爪痕を残したいという志がある。自分よりはるかに大きな志ではあるが、父親の思いが痛いほど解ったからだ。

 それに、「あの子が選んだ人と幸せになってもらいたかったのですが……」と、すまなそうな顔をする京太郎の父親に、悪意があるとは受け止め難い。

 だから葉子は、「考えさせてください」と、即答はできなかったものの、京太郎本人がいない場で「別れてほしい」と言われたことはすなわち、京太郎への報告は避けるべき件と承知し、ずっと心にしまってきたのだ。

 両親の反対を乗り越え、幸せに暮らしている夫婦はごまんといるからこそ、葉子は京太郎と、互いにあふれんばかりに注ぎ合う愛情を信じてみようとした。

だが、京太郎の父親との件に加え、倉田紗耶香と槇本梨沙とのいざこざが相次いだことで、「京太郎には自分よりもっと若い子のほうがいい」という結論を下すに至ったのだ。京太郎の父親とのことがなければ、葉子は亜由美に才島を紹介すると言われても会っていなかったかもしれない。

 2回しか会っていないのに、なぜか安心して心を解き放つことができる才島を思い浮かべていると、メール着信ランプが点灯した。

「急に打ち合わせがキャンセルになったのですが」

 才島だった。

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