リアル働きマン葉子!黒革の編集手帳 written by 内埜さくら Vol.12

リアル働きマン葉子!恋敵が告げる「彼、他の女とキスしたのご存じ?」

前回までのあらすじ

食雑誌である『月刊東京ウォーキング』の編集者・高嶋葉子(35)は、この道10年目の中堅、未婚、彼氏アリ。

誠実で愛すべき 年下彼氏である橘 京太郎(28)の未練たっぷりなモトカノである槇本梨沙は、サル知恵を働かせてふたりを別れさせようと目論む

そんななか、大学時代の友達が紹介してくれた、新進気鋭の若手実力派コンサルタントとして、テレビや経済誌などの常連になりつつある才島孝央から、「結婚前提の」交際を申し込まれる……!

前回:リアル働きマン葉子!“おばさん”扱いされた翌日に、「結婚前提」オファー!

 あの夜、ただ見つめ返すことしかできない葉子に機転を利かせてくれた才島を、葉子はタクシーの中で思い出していた。

「……と言っても会うのはまだ2回目だから、いまここで答えがほしいとは言いません。その代わり、またこうして誘ってもいいですか?」

 少し時間をください、という葉子の本心を見抜いた才島が、代弁してくれたかのようであった。
 京太郎という恋人がいるのに、ほかの男に告白されてその答えを引き延ばす自分がずるいことは、充分に解っている。ただ、たった2回しか会ったことがないのに、才島に対してなぜか自然と心を解きほぐすことができている自分も、葉子は自覚していた。

 それにこのごろ、京太郎の身辺が騒がしい。酔い潰れて自宅に泊めたという倉田紗耶香、おそらく京太郎が好きなのであろう、自分をおばさん扱いした槇本梨沙。そして、京太郎にはなにがあっても告げないと決めている“あの件”が、2人の存在とともに葉子の心に重くのしかかっていた。

「結婚はね、入籍するまでなんのいざこざもない相手とするのが一番いいのよ」
昔、母から言われた言葉がよぎった。京太郎と自分の関係だけを見れば問題ないように思えるが、あの2人と“あの件”は「いざこざ」のうちに入るのだろうか。だとすれば、もしかしたら自分は、才島と一緒になるほうが幸せになれるのではないか。心も身体も紐づけられているのは京太郎のはずなのに、なぜかそんな考えが消えない。生煮えのような気持ちを抱えながら、葉子は京太郎宅へと向かっていた。

 今夜8時ごろ到着すると言っていた葉子を、京太郎は自宅で待ちわびていた。きっと葉子は仕事でくたくたで、お腹を空かせて家に飛び込んでくるはずだ。

「あーっ、お腹が空いた!」

 疲れた顔を隠すように笑顔で自分に抱きついてくる姿を思い描きながら、京太郎は上機嫌でつまみの準備をしていく。スパムミートのサラダを作って冷蔵庫に入れ、クラッカーにのせるパテやガーリックトーストを焼く下ごしらえをする。メインはいつも、葉子が冷蔵庫の中にある残り物で手早く作ってくれる。これでいいだろう、とソファーに腰を下ろすと玄関チャイムが鳴った。

 予定より20分ほど早いが葉子だろうと見当をつけてインターフォンは取らずに玄関ドアを開けると、そこに立っていたのは梨沙だった。

「こんばんは。話があるの」
 そう言い終えないうちに京太郎をすり抜けてヒールを脱ぎ、梨沙が勝手に室内へと歩を進める。

「……帰ってくれ。もうすぐ人が来るんだ」
「葉子さんでしょう?」
「関係ないだろ」
「関係あるわ。だって私まだ、京太郎のことが好きなんだから」
「もう終わったことじゃないか」
「私の中では終わってない。あんなおばさんにだけは盗られたくないの。ねえ京太郎、目を覚まして」
「いいから帰ってくれ!」

 抱きつかんばかりに近づいてきた梨沙の肩を強く押し戻すと、今度は哀願するような涙目で言う。
「なによ……会社の子とはキスしたくせに。どうして私じゃ駄目なの」
「なんでそれを……」
「やっぱり本当だったのね。倉田紗耶香さんだっけ。食事に誘って、当の本人から直接聞いたのよ」
「そんなことまでこそこそ調べるなんて、お前、最低だな。心が腐ってる。別れて正解だったよ」

 女の子に優しい男の子になってね――。幼い頃、母から言われた教えを京太郎はいま初めて破り、蔑むような視線と汚い言葉を並べ立てて梨沙を傷つけた。胸のうちにふつふつと沸き上がる頂点を超えた怒りを口に出さなければ、梨沙を黙らせることはできないと踏んだからだった。

「彼女以外の女とキスする京太郎だって最低じゃない! 本心じゃ、あのおばさんとのこと、迷ってるんじゃないの!?」
 初めて京太郎が激怒する顔を見た梨沙は一瞬、ひるみかけたが、そう捨て台詞を吐くと玄関へと向かっていった。

「痛いっ!」
 葉子の叫ぶ声がして玄関へ行くと、肩をさすっている葉子とドアの内側のノブをつかんだままの梨沙が向かい合うように立っている。梨沙が勢いよく開けたドアに、玄関チャイムを鳴らそうとした葉子がぶつかってしまったのだろう。

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