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SPECIAL TALK Vol.130

~好奇心と恐れない心で、音楽だけに留まらない挑戦を続ける~


ピアノを断念するも突然拓けた歌の道


金丸:学校は地元の公立校ですか?

田中:はい。小・中・高と公立校に通いました。高校は一応進学校でしたが。

金丸:音楽関係の学校ではなかったんですね。

田中:ピアノは続けていましたが、中学校の進路相談のとき、「ピアノをやりたいから京都の音楽高校に行きたい」と話したら、先生から「それは無理」って言われて。

金丸:えっ。音楽の先生にですか?

田中:いえ、違います。だから「私のピアノ、聞いたこともないのに」って思いました。

金丸:私だったら腹が立って、すぐに部屋を飛び出してますよ。

田中:でも同時に「確かにそこまで本気で真面目にやってなかったかも」って。だから、そのときはおとなしく地元の進学校を選びました。もしかしたら、勉強の方が楽しいと思うかもしれないし、と。

金丸:じゃあ、高校でもピアノを続けながら、普通に勉強もして過ごしたんですね。

田中:それが、高校2年生の17歳のときに、「どうやら私は手が小さいらしい」ということに気付いて。

金丸:ということは、逆にそれまでは気がつかなかったんですか?

田中:それまでは速い演奏が得意だったんですよ。高校生になって、ちょっと大人っぽい曲、例えばショパンの曲を弾きたいなというときに、「あれ?全然指が届かない」と。

金丸:確かに田中さんの手、小さいですね。

田中:1オクターブがギリギリです。「曲のほとんどは弾けるのに、ここだけ弾けない」という曲が増えてきたのが、すごく嫌で。でも、「こんなことでストレスを感じているようじゃ、プロにはなれない」と思ったんです。一度「自分には無理」と思ってしまうと、自分の中のハードルってなかなか越えられないじゃないですか。それに、物理的に手が届かないことを解決する案も見つからない。

金丸:だけど、それまで10年以上もピアノをやってきて、すぐに諦められるものですか?

田中:音大にそのまま進む道もありましたが、進んだところで、大学が終わる頃には、私が望むクオリティには届きそうにない。だったら、その4年間が無駄になるからやめよう、って思いました。

金丸:じゃあ、普通の大学に行って就職することも選択肢に出てきたんですね?

田中:まったくなかったですね。

金丸:なぜでしょう。進学校だから、周りの友達は「どこの大学に行こう?」みたいな話をしてますよね。

田中:私にとっては、ピアノを弾く、音楽を演奏するということが、生活のルーティンになっていました。だから、音楽と縁遠い生活を送ることは想像できなかったんです。

金丸:なるほど。単にプロになりたいとか、そういうことではなく。

田中:どうしようかなと悩んでいたときに、ピアノの先生が「歌をやってみたらどうですか?」って。確かに歌であれば、楽器を新しく買う必要もないし、やって損することもないし。

金丸:ピアノの先生は、田中さんの歌を聞いたことあったんですか?

田中:ないです。

金丸:ないんだ(笑)。

田中:ないですけど、試して全然ダメだったらやめればいい。別に失うものはない。それで先生から歌の先生を紹介してもらって、どのくらいまで音が出るかを試してみたら、ピアノの鍵盤の端っこまで声が出たんです。

金丸:ピアノの端っこって、とんでもない高音ですよね。

田中:まあ、歌で、そんな音が使われることはないんですけど。

金丸:そんなに高音が出ることを、そこで初めて知ったんですか?

田中:はい。「こんなに出るのは珍しい」ってざわつきました。

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