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30歳になりまして Vol.11

付き合って半年でやや不穏な空気に…。箱根へのお泊まり温泉旅行で修復しようとしたら

しかし蒼人は、ぽつりと呟いた。

「でも、結婚って…そんなふうに急いで決めることなんだっけ?子どものことはわかるけど、急いだからって必ず授かれるわけじゃないのに、それを理由に簡単に決めちゃっていいのかな」

「簡単に、なんて言ってない。ただ、一度真剣に考えてほしくて…」

「真剣だよ、ずっと。だからこそ、会社の人にもちゃんと“付き合ってる”って言った。時間をかけて、誠実に決めていきたいと思ってる」

付き合って約半年。

今まで、ここまで真剣に本音を話したことはなかった。

慣れない空気感に、私は居心地が悪くなってくる。

「…私はただ、焦る気持ちがあることを、蒼人にわかってほしいだけ」

「うん。それを聞けたのはよかった」

「今まで、結婚はまだいいとか言ってたのにごめんね」

蒼人は小さく「ううん」と言った。

「でもさ、菜穂。30歳を超えたら、半年とか一年付き合って結婚って、よくある話なのかもしれないよ。でも今の僕には、そのスピード感がどうしても腑に落ちない。なんかすごく不誠実に思える」

私はうまく答えられなかった。気まずさを残したまま、私たちは言葉少なに食事を続けた。




以降、蒼人は、少し元気がない。

冷たくはないけれど、なにかを抱えているように見える。

微妙な空気を引きずったまま、蒼人との半年記念日が近づいていた。

会社の創立記念休暇を使って出かけようと、蒼人から誘ってくれたのだ。

私は「旅行の計画はまかせて」と言って、箱根の旅館を予約していた。選んだのは、肉料理が評判のきれいな宿。きっと喜んでくれるだろう。

日頃の感謝を込めて、日本橋の三越でプレゼントも用意した。男性用の高級化粧水と、彼が仕事で使えそうな上質なノート。

とりあえず、また楽しい関係に戻りたい――蒼人との未来を失いたくない私にとって、それが喫緊の課題だった。結婚については、またどこかで話し合えばいい。


そして、旅行当日。

箱根の温泉旅館は、期待通りの素晴らしさだった。

柔らかな湯に浸かり、食事も丁寧で美味しく、私たちは少しずつ、普段の距離を取り戻していった。

「あーすんごい幸せな気分」

食後、部屋にある大きなL字型ソファに身を委ねて、蒼人が言う。彼の言葉に、私はほっとしながら頷いた。

「本当ね。お互いに忙しいけれど、また、場所を変えて、いろんなところに行こうよ」

すると蒼人が、真顔になった。

「ねえ、真剣な話をしてもいい?」

その表情に、私の胸は、静かにざわついた――。


▶前回:元カレから「結婚前提でやり直そう」と言われた30歳女。もう好きじゃなくても心が揺らぐワケ

▶1話目はこちら:「時短で働く女性が正直羨ましい…」独身バリキャリ女のモヤモヤ

▶NEXT:7月23日 水曜更新予定
温泉旅館での特別な夜。しかし、幸福な空気感は一変し…?

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この記事へのコメント

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No Name
選んだのは肉料理が評判のきれいな宿。

28点!もう少し別の表現方法があると思うし、旅館のくだり、全体的に雑。
2025/07/16 05:1522Comment Icon1
No Name
そもそも、会社帰りに呑んだ以外 “たった一回” しかデートしてないのに告白されて舞い上がり、死ぬほど結婚したくて焦ってるのを隠して付き合うからこうなったのだと思います。 社内に公表したところで結婚に近づくものではない。歳下の彼の外野がうるさくなって別れが近づく場合もある。常識のある年上女性なら簡単に分かる事。 蒼人も、「子供は急いだからって授かれるものではない」とかトンチンカンな言い訳し始めるし、低レベル過ぎる二人!
2025/07/16 05:5020Comment Icon2
No Name
どんな小さい会社だよ? 噂の広まり方🤣
2025/07/16 05:1317Comment Icon1
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30歳になりまして

「30歳」

その数字は、女性の心に妙に重くのしかかる。

「年齢なんてただの数字」と本人は思っていても、世間がそれを許してくれない。

職場では、つい最近まで若手だったはずなのに、いつのまにか中堅どころになっている。

マッチングアプリだって自動的に30歳になった途端に「いいね」が減った気がする。

気持ちは追いついていないのに、30歳という年齢の重みがが急にのしかかる。

大手IT企業のマーケティング部で、課長職を担う桜庭菜穂は、30歳になって迷いが生じ始めた…。

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