◆これまでのあらすじ
大手IT企業のマーケティング部課長・桜庭菜穂(30)。5歳下の人事部・澤石蒼人と交際して6ヶ月。彼が「社内合コン」に行ったというウワサを耳にする。その夜、気晴らしに出かけた先で菜穂は、元カレ・博俊(35)と偶然会い――。
▶前回:「30歳過ぎて彼氏と別れるのはツラい…」恋人を簡単に切れない、切実な理由
Vol.10 「結婚前提で」って、今さら
博俊が連れてきてくれたのは、新橋の路地裏にある薄暗いダイニングバーだった。
「ここ、仕事終わりによく来るんだ。いいお店だよね」
博俊は、店内をゆっくり見回しながら言う。
― その感じ、昔と変わらないや…。
付き合っていた頃からそうだった、と私は思い返す。
博俊はどの店に行っても、「食事を提供する側」の目線で観察する。
「なんか、懐かしい」
「ほんとだな。菜穂とこうやってしゃべるのは…別れて以来か」
テーブルの上の照明が、淡く博俊の横顔を照らしている。
目尻を中心に全体的に薄く刻まれたシワ。彼もまた歳を重ねているという当たり前のことに、私はハッとする。
「博俊は、充実してそうだよね」
「そう見える?」
「実はね、私、このあいだ博俊の名前で検索したんだよ。今、何してるのかなって単純な興味でね」
「ええ、そうか」
「だから、博俊が今、渋谷にレストランを2店舗も持ってるのを知ってる。活躍してて、嬉しいよ」
博俊は照れ顔で、メニューを開いた。バーボン2杯と生チョコを頼むと、しばらくの間黙り込む。
「…ありがとう。気にかけてくれてて、俺こそ嬉しいわ。菜穂は、元気にしてた?」
「う、うん」
私は幸せそうに微笑んでみせた。まさか、「彼氏が合コンに行った」という噂を聞いてしまったなんてことは、博俊には当然言わない。
「ならよかった。俺さ、菜穂に振られた直後、結構落ち込んだんだよ」
「…そう?」
「うん。それで仕事に没頭した。おかげでだんだん仕事が軌道に乗ったから、まあ感謝してるけど」
注文したものが届き、グラスを合わせる。「美味しいね」と言い合ったあと、博俊は何げない流れで言った。
「そうだ。こんなこと聞いていいのかアレだけど…」
この記事へのコメント
特に “仕事終わりに料理作って待っててくれるところ” これは元カレとダメになる時、文句言ってたね。最初は尽くしてくれるから嬉しいけど段々それが薄れてくると菜穂は不信感を募らせるよね。今はいいけど彼が多忙な部署に異動するとか将来起業するとか、早く帰宅し夕飯作りが出来なくなったら、また菜穂は愛されてないと感じるんじゃ?彼女は何かしてくれるから好きと思うタイプで、好...続きを見るきだから与える人ではない。