「30歳」
その数字は、女性の心に妙に重くのしかかる。
「年齢なんてただの数字」と本人は思っていても、世間は違う。
職場では、つい最近まで若手だったはずなのに、いつのまにか中堅になっている。
マッチングアプリだって30歳になった途端に「いいね」が減った気がする。
気持ちは追いついていないのに、30歳という年齢の重みがが急にのしかかる。
大手IT企業のマーケティング部で、課長職を担う桜庭菜穂。
自分の人生を結構気に入っている……はずだったのに、30歳になって菜穂の中で、迷いが生じ始めた…。
Vol.1 30歳。気づいたら中堅社員になっていた
「四ツ谷駅までお願いします」
スライドドアが閉まる。ゆっくりと動き出したタクシーの中、私はシートに体を委ね、窓の外に視線を移した。
見上げた先にあるのは、新卒から勤務しているIT企業の大きなビル。25時、もうほとんど明かりはついていない。
― 今日も1日、よく働きました。
自分を褒めながらスマホを開く。画面のまぶしさに目を細めながら、私はつい笑みをこぼした。
LINEのトーク画面に並ぶ、久々に見る名前の数々。
「菜穂、お誕生日おめでとう!素敵な30代のスタートを!」
「節目の誕生日だね!おめでとう、久々にご飯行こう」
4月2日。
ついさっき、私は30歳になった。
友人より一足先に歳を重ねることにはもう慣れている。でも、「30」という数字は、思った以上に重く心にのしかかる。
― なんか、変な気分。
小さい頃に想像していた30歳の自分は、子どもが2人ぐらいいたような気がする。
比較して今の自分は、彼氏さえしばらくいない。
だけれど、これはこれで、それなりに大人っぽいとも思う。
課長になって後輩をたくさん抱え、大切な友人が何人もいて、自分に贅沢をさせられるくらいには経済的に余裕はある。
タクシーが、皇居を左手に見ながら北上していく。日比谷、大手町……。去年課長になってからタクシー帰宅が一気に増え、この景色ももう見慣れた。
私はゆっくりと目を閉じる。途端に眠気がおそってきて、車の走行音が遠ざかっていく。
この記事へのコメント
30歳なんて気の持ちようだし人生まだまだこれからなのに。
本当は子育てしながらの時短勤務に憧れているのに、安西さんとの対談は気持ち的にちょっと辛いけれどどうなるのか......本音が出過ぎてピリピリした空気になるのも、お互い遠慮してお世辞を言い合うような対談も、人事としては望んでないでしょうし。先の展開が楽しみです。多分、仕事より婚活がメインな話...続きを見るになる気がしますね。