3日後、日曜日の昼。
四ツ谷駅にある商業施設周辺を一人でブラブラしていた私は、ふとLINEを確認し、足を止めた。
中高一貫校時代のダンス部のグループLINEが、久々に動いている。
『このたび結婚することになりました。そして実は今、お腹の中に赤ちゃんがいます』
その報告に、私は思わず「えっ、すごい」と声を漏らす。
友人は、高校時代からずっと子どもがほしいと言っていたのだ。それで、ここ数年、一生懸命に婚活をしていた。苦労を知っているから、報告だけでも涙が出て、視界が揺らぐ。
このグループLINEには、こういった結婚報告や妊娠報告、出産報告が、数ヶ月に一度は上がっている気がする。
― 私だけが、全然投稿してないな。…っていうか。
8人いるダンス部の同期は、これで、私以外みんな結婚したことになる。そのことに気づくと、少しだけしょんぼりした。
歩きながら、みんなのことを考える。
― みんな結婚したり、子どもができたり、海外に移住したり。すごいよなあ。
私がそう言うと、友人たちは、よくこう返してくれる。
「でも、菜穂。結婚=幸せではないから」
「そうそう。菜穂みたいにバリバリ働いているの、本当カッコいいよ」
「結局、独身時代のほうが幸せだったよねえ」
彼女たちの温かい心づかいは、どういうわけかいつも、みじめな気持ちを連れてくる。
確かに、別に結婚や妊娠がすべてではない。今の自分は、悪くない。そう思っていても、周囲と歩調がズレている自分に落ち込んでしまう。
10分弱歩いて自宅に戻ると、私はすぐにソファに寝そべった。ふと頭に浮かんだのは、マッチングアプリの存在だ。
― 久々に動かしてみようかな。
2年ほど前まで、よくアプリを使って異性と会っていた。でも真剣な交際に至ることはなく、そのうち億劫になってやめてしまった。
以来、デートすらせずに仕事に邁進してきた。
非アクティブになっていたアプリを起動し、プロフィールを入れ直す。不思議なことに、それだけで少しだけ気が楽になった。
◆
1週間後。
― 気のせい、だと思いたい。
リモートワークの日の朝、コーヒーを飲みながらスマホを見ていた私は、マッチングアプリを開いてそっと伏せた。
なんだか3年前よりも、「いいね」が来る数が大きく減っている気がする。
― 30歳になったから?
そういう話は、聞いたことがある。アプリを始めたり、結婚相談所に登録したりするなら、20代のうちが断然いいと。
― でもそんな、一昔前じゃあるまいし。そこまで関係ないよな。
自分に言い聞かせつつも妙な焦りがあり、私は目についた何人かに「いいね」を送ってみた。
― リアクションがあるといいけれど。
恐ろしくなってきた私は、現実から逃げるようにマッチングアプリの画面を閉じ、社用PCを開いた。
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30歳、自分の願う幸せに向かって動き出した菜穂。マッチングアプリの手応えは?
この記事へのコメント
30歳なんて気の持ちようだし人生まだまだこれからなのに。