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30歳になりまして Vol.11

付き合って半年でやや不穏な空気に…。箱根へのお泊まり温泉旅行で修復しようとしたら

「ん?」

「僕はね、正直、言わなきゃよかったと思ってる。僕から提案したのにごめん。少なくとも菜穂の名前は伏せればよかった」

蒼人は、コーンスープが入ったボウルを手に持ったまま、その表面をぼんやり見つめている。

「どうして?」

「だってさ…話した途端、周りが“結婚するの?”ってうるさくて。年上女性と付き合うってだけで、こうも言われるものかね」

「…そんなに?」

「うん。うちの同期同士が付き合ったときなんかとは、みんなの反応が明らかに違う。結婚とか、責任とか、決断とか、そういう言葉を持ち出されて」

私は、頷くことしかできない。

― そっか、蒼人は後悔してるのか。

社内で公表したら、一歩、結婚に近づけるかもしれない。そんな期待をした自分が悲しい。やっぱり蒼人にとって、結婚はそれだけ気が重いものなのだ。

私は、思い切ってもう一歩踏み込んでみることにした。

「気持ちはわかるけれど…。蒼人は、そんなに結婚が嫌?」


「うーん。まだ早いって思うだけ。菜穂も、結婚は今すぐじゃなくてもいいって思ってるんでしょう?」

― それは。

過去に同じことを聞かれるたびに、私はたしかにそう言ってきた。急いではいない、じっくり考えたいと。

蒼人にプレッシャーをかけたくなかったからだ。本音は違う。

― 今日は、ちょっとだけ本音を言ってみようかな。

「前はそう言ったよね。でも、みんなに公表したわけだし、そろそろちゃんと結婚も考えてほしい…かも」

蒼人にとって、嫌なセリフだろう。そう感じつつも、言葉を引っ込めることはできなかった。

蒼人は、少しだけ視線を逸らした。そして「そう思うか、そうだよね」と自分に言い聞かせるかのように何度もうなずく。

「でも僕、今は仕事もあるし、毎日が必死だし…同棲で十分だって、思っちゃってる」

「わかるよ。蒼人のペースはもちろん大事にしたい。でも、公表するってことは、そこのあたりも今よりは進むのかなって、勝手に想像してたから」

「そっか。公表する前に、もっとちゃんと話したらよかったな」


沈黙が訪れ、私は蒼人が作ってくれた料理を無言で味わう。しばらくして、蒼人が口を開いた。

「責任を取りたくないってわけじゃないんだよ。ただ…まだ、うまく想像できていない」

彼らしい正直な言葉だ、と思った。

私だって25歳のとき、同じように結婚を“現実”として捉えられていたかと問われれば、言葉に詰まる。

でも――時間は無限ではない。とくに女性は。

「急かすつもりはないけれど…私は子どもがほしいと思っているから、あんまりのんびりしていられない。そういう意味で、焦りもある」

なぜか涙が出てきそうになり、こらえる。

「だからできれば、蒼人にも、そのあたりを現実的に考えてほしいの」

この記事へのコメント

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No Name
選んだのは肉料理が評判のきれいな宿。

28点!もう少し別の表現方法があると思うし、旅館のくだり、全体的に雑。
2025/07/16 05:1522Comment Icon1
No Name
そもそも、会社帰りに呑んだ以外 “たった一回” しかデートしてないのに告白されて舞い上がり、死ぬほど結婚したくて焦ってるのを隠して付き合うからこうなったのだと思います。 社内に公表したところで結婚に近づくものではない。歳下の彼の外野がうるさくなって別れが近づく場合もある。常識のある年上女性なら簡単に分かる事。 蒼人も、「子供は急いだからって授かれるものではない」とかトンチンカンな言い訳し始めるし、低レベル過ぎる二人!
2025/07/16 05:5020Comment Icon2
No Name
どんな小さい会社だよ? 噂の広まり方🤣
2025/07/16 05:1317Comment Icon1
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30歳になりまして

「30歳」

その数字は、女性の心に妙に重くのしかかる。

「年齢なんてただの数字」と本人は思っていても、世間がそれを許してくれない。

職場では、つい最近まで若手だったはずなのに、いつのまにか中堅どころになっている。

マッチングアプリだって自動的に30歳になった途端に「いいね」が減った気がする。

気持ちは追いついていないのに、30歳という年齢の重みがが急にのしかかる。

大手IT企業のマーケティング部で、課長職を担う桜庭菜穂は、30歳になって迷いが生じ始めた…。

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