52歳が現場のエースだった30代の頃、東京を風靡し、足繫く通った店がある。
そんな名店は、いまなおその魅力を発し続けている。50代、落ち着いたいまこそもう一度。
若い頃、夢中になったあの店へ――
色褪せないあの頃の高揚とともに、いまの年齢だからこそ分かる新たな感動もあるはずだ。
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1.イケてる社会人は皆、大人の洗礼をここで浴びた
“XEX 愛宕”の東京タワー
当時、本命を落としたい勝負デートには“XEX 愛宕”一択だった。専用エレベーターで42階に上がり、モダンなバーの先に現れる、海外のペントハウスのような空間が懐かしい。
一面のガラスには東京タワーが間近に煌めき、その非日常のラグジュアリーに彼女がとびきりの笑顔を見せてくれたことをいまでも覚えている。
こなれたワインの頼み方に憧れ、『サルヴァトーレ クオモ ブロス』のピッツァに感激し、「手長海老のパスタ」を初めて食べたのもここだった。
いまでは妻となった彼女との記念日に久しぶりに42階に上がると、あの当時の高揚感がよみがえる。
他のゲストたちと奪い合った窓側席から望む東京タワーは相変わらず美しく、その傍には新たに麻布台ヒルズが瞬いていた。ここで幾多の友人がプロポーズしてたっけ。
「いまでもあの席でプロポーズされる方多いですよ」と、僕たちの話を聞いていたソムリエがこっそり教えてくれた。
いまも昔も特別な日に訪れたい、とっておきの場所。来年もまた訪れる楽しみを胸に、ワインに手をのばした。
2.肉とワインをラフに楽しむ粋な文化の原体験がある
『マルディグラ』の豪快な肉料理
やっぱり、すごいことになっている。
そびえ立つ、スペシャルな肉タワーを前にして、思わず笑ってしまった。
「肉の変態盛り2025バージョンです」。店主も悪戯っ子のように微笑んでいる。
定番ハンバーグにナポリタン、鶏と鴨、羊に豚、牛とオールスターが勢ぞろい。相変わらずのサービス精神に感激する。
何十年かぶりに同期で集まろうと、誰かが言い出したときから僕の中で、集合場所はこの店と決めていた。
通っていた頃は全員、まだギリ20代で食欲も旺盛。短角牛のビステッカ、仔羊のタジン、青首鴨のコンフィなど、振り返れば、テーブルにはいつも豪快な肉料理があって、それを囲む皆の笑顔があった。
デートで行くべきだと思い込んでいたフレンチで、仲間と自由に楽しんで良いんだと教えてくれた『マルディグラ』は僕にとって原点。間違いなく、そう断言できる。
ワインのウンチクなんて全然いらない。ただ美味しくて愉快なら、それでOKと学べたからこそ何事にも前向きないまの自分がある。
今夜、改めて思い知った。多分、皆も同じように感じているのだろう。心なしか、昔よりもグラスの空くペースが早いように感じる。
3.味・値段・空間の“ちょうど良さ”が若き精鋭たちの支持を得た
仲間と集った『紫玉蘭』
入り口の看板に「チャイナバル」とあって記憶が一気に蘇った。
最近でこそ本物を小皿でカジュアルに提供する中華は多いが、『紫玉蘭』が誕生した15年前は他にあまりなく、しかも、ここは母体が北京ダックで名高い『中国飯店』。信頼性は抜群と予約したのが最初だった。
あれは幹事に指名された社内の飲み会だった気がする。大いに盛り上がり、当時の上司から褒められた喜びは鮮明に覚えている。
その後もデート、飲み会と通い詰めたがそれは食べて飲んで1万円以下という予算感が、当時の僕の懐具合にちょうど良かったから。
もちろん料理の旨さはいつも盤石で、初めて上海ガニを食べたのもここだった。
随分ご無沙汰したが、今夜、後輩たちに誘われて来てみると、シャンデリアの灯る店内の空気感は以前とまったく同じで上質。
いろいろと思い出が蘇り、気分も上がってきた。
麻婆豆腐をカスエラ的な土鍋でタパスのように提供するスタイルは相変わらず。
個室もさまざまな部屋があるようで、使い勝手の良さは抜群と再認識する。
何より、皆がこれほど楽しそうに食べているのだから、間違いない。ならば、これからも折に触れて通おう。
4.この店のインターホンは東京の一軍への通過儀礼
『福笑』でのお食事会
『福笑』に初めて来た夜のことはいまも鮮明に覚えている。友人に誘われるまま期待もせずに参加した、食事会だった。
オートロック付きのビルの中にある和食店なんて、初めて聞いたし、入れば、5階とは思えないほど緑が生い茂っていてビックリした。そんな記憶とともに、強く印象に残っている。
何年かぶりに、所用で来た恵比寿でこの店のことをふと思い出し、勢いで電話するとひとりなら入れるとのこと。
来てみたら、まだ早いのにほぼ満席で、変わらない人気ぶりに、また驚いた。カウンターに通される。
そうそう、ここは毎朝仕入れる旬食材が大皿に盛られて並ぶ、この光景も名物。立派なアスパラガスもやっぱりあって、何だか嬉しくなる。
目の前でテキパキ調理する若い店長に話を聞くと、当時の親方と女将から店を任されているそう。
「これほどの名店ですからね、身が引き締まる思いです」と真顔で語る。その一生懸命ぶりに、応援したくなる。
アスパラが来た。そう、この甘さ。フルーティな日本酒ともよく合う。
「食感を大切にしてサッと茹で上げる、そこが大切と親方から教わりました」と店長。
本物は変わらないと痛感する。
5.深夜に良い店を知っていることがデキる大人の条件だった
タクシーで行く『福わうち』
久々に訪れて驚いた。扉は引き戸に、黒っぽかった外壁は真っ白な漆喰に。玄関が一新されている。
シルバーに輝く店名には令和の文字も追加されている。
入ると、空間もかなり変わっていたが、あの大将の姿があって、ホッとした。
「元号が変わった年に改装しました」と変わらない笑顔で迎え入れてくれる。転職した先輩と来たのが最後だから、もう何年、経ってしまったことか。
「今日は部下を連れて来ました」と伝えると、常連に接するがごとく、「いつもありがとうございます」と返してくれた。
『福わうち』はこの地で20年以上。居酒屋といえばそうだが、軽んじてもらっては困る。
何を食べても最高で、他では決して食べられない絶品ばかりがそろう。
いまは月替わりのおまかせコースが基本だが、食べたい一品料理があれば、追加注文もできる。
今夜はガッツリの腹づもりだったから、絶対に食べたかった「トロカツ」は予約の際、しっかりお願いしてある。
「どうよ?」、頬張る部下に尋ねる。「す、すごいっすね」と驚いたよう。
俺は何もしてないが、誇らしく思う。大将も嬉しそう。この店を教えてくれた先輩にはもう、感謝しかない。
6.西麻布の隠れ家感とストウブ料理が最高に洒落ていた
『HOUSE』での洗練の時間
西麻布が私にとって特別であり続ける理由はいつも大切な夜に来ていたから。デート、女子会、打ち上げ、接待。成功体験だって少なからずある。『HOUSE』はその最たる例。
オープンしてまだ間もないころ、取引先の男女をグループでお招きして、カジュアルにもてなしたことがある。裏路地にあるビルの最上階にひっそりという隠れ家感が、先方には好評だった。
当時はネオ・ビストロの急先鋒なんて呼ばれていた頃で、名物はストウブのココット料理。ワインもナチュールばかりをリストアップして新しかった。
同僚を誘って久しぶりに訪れたけれど、店内がまったく変わっていないことに感激。
「テラスの植栽だけは立派に成長して、雰囲気が変わりました」と、当初から参加しているマネージャーさんが笑う。
料理は、いまは月替わりのコースのみ。前菜、メイン、〆、デザートと続いて全8品がそろう充実した内容。
選べる〆のピラフは迷わず「フォアグラ」に。オープンキッチンから出来立てが届き、蓋を開けてもらえば、美味しい香りがふわっと湯気になって一気に立ち上る。
この臨場感は、やっぱり良い。今度はまだ来たことのない後輩を連れ出そう。
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