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SPECIAL TALK Vol.127

~「家族」を描き続けたからこそ、映画の先に見えてきたものがある~


文化豊かな奈良で、大伯母夫婦に育てられる


金丸:さて、奈良市のお生まれということでしたね。

河瀨:はい。いまも大仏さんのお膝元に住んでます。

金丸:河瀨さんはご両親と離別されたと伺っています。

河瀨:私がまだ母のお腹にいるときに両親が別れてしまって。生まれてすぐに母方の伯母夫婦に引き取られました。母より世代がひとつ上で、私が生まれたとき55歳くらいだったので、義父母を「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼んでいました。後々、養子縁組をすることになるんですが。

金丸:映画『朝が来る』では、養子縁組が重要な要素でしたね。

河瀨:辻村深月さんの原作を読んだときに、「養子にもらわれたこの子は私やわ」と感じました。私の場合は年が離れているのもあって、血のつながった親ではないことはすぐわかりましたが。

金丸:子どもの頃から本当のお父さん、お母さんじゃないことはご存じだったんですね。

河瀨:知ってました。けど、同じごはんを食べて、同じ屋根の下で毎日暮らしてる。「家族ってこういうことかな」って。それに、養父母の世代は戦争を知っているので、いろんなことに感謝するんですよ。お日様が上がってきたら手を合わせてはるし、物を捨てるときにも「お世話になりました」って言わはるし。そこらで石仏を見たら「まんまんちゃんしいや(手を合わせて拝みなさい)」って。

金丸:石仏ですか。奈良だと、至るところに歴史的なものがありますよね。

河瀨:東大寺、興福寺、春日さん(春日大社)、世界遺産の宝庫です。森も全部神様のお庭やし。でも子どもの頃はそんなのは分かってなくて、ただの遊び場でした。仏像も石仏もすごい歴史があるのに、普通に現代の生活が一緒に存在してる。

金丸:すごく贅沢な環境ですよね。奈良の自然や文化・歴史の中で育ったことは、河瀨さんの創作に影響がありますか?

河瀨:すごくあります。映画を作り始めてから、初めて奈良を客観的に見て、改めて「1300年も絶えずに続いてる行事があるとか、ありえない」って。

金丸:例えばいまから私たちが何か行事を始めたとして、1300年続けるなんて、到底無理でしょう。

河瀨:続いてるのにも理由があって、次の世代につながっていくようにシステムができていますよね。お伊勢さんの式年遷宮(20年に一度、伊勢神宮の内宮などを造り替えること)も、技術を継いでいくことに役立っている。そんな昔から、当時の人たちは自分の人生だけじゃなくて、人間とか人類とかのことを考えていたのかもしれません。

金丸:ちなみに、実のご両親とお会いする機会はあったんですか?

河瀨:母とは会っていましたね。すでに別の家庭を持っていたんですが、授業参観日や運動会には来てくれてました。

金丸:そのことを河瀨さんはどう思っていたんですか?

河瀨:なんでしょうね。そういう晴れの舞台だけ来るから、ちょっと複雑でした。日々の私の良いところも悪いところも知ってるのは、やっぱりおばあちゃんで。

金丸:だからこそ、なのでしょうか。河瀨さんの映画は「家族」という存在を強く意識させられます。

河瀨:映画だけじゃなくて、音楽や小説でも、作家って人生の中で手に入れていないものとか、自分にとって不在のものを、作品を通じてポジティブな何かに変えていくんじゃないかなと思います。だから私の場合、テーマとして家族が常に出てくるんでしょうね。

金丸:ちなみに、学校の勉強は好きでしたか?

河瀨:つまんなかったです。

金丸:私と一緒ですね(笑)。

河瀨:興味のあることを質問すると、「それは2学期にね」とか言われて。宇宙のこととか、すごいちっちゃい世界のこととか、まだわからないことを知りたいのに、先生は答えてくれない。結果、空想ばかりする子になりました。

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