SPECIAL TALK Vol.124

~丹後を日本のサン・セバスティアンに。地方の「お酢屋」がまちづくりを考える~


本物の酢は発酵を2回行う貴重な調味料


金丸:地元の農家に協力してもらい、自分たちも米作りに乗り出すことで、高品質の米酢を作り続けているというのは、非常に価値のある取組みですね。

飯尾:日本農林規格だと、容量1リットルに対して40グラムの米を使えば「米酢」、米の量を120グラムまで増やすと「純米酢」と名乗ることができます。でも、うちの「純米富士酢」は200グラム、「富士酢プレミアム」はもっと多くて320グラムの米を使っているんです。

金丸:基準を遥かに上回る量ですね。だからこんなに味が違うんだ。

飯尾:ただ、単純に米の量を増やすだけだと、問題も出てくるんです。それが香りです。発酵の過程で生まれるダイアセチルという物質があって、これが米酢特有の香りを生み出すんですが、一般的なお酢と比べて大量の米を使い、発酵にも時間をかけることで、香りが強くなるんです。嗅ぎ慣れていないと「何かヘンな香りが」と思われる方もいて。

金丸:本来は高品質の証だけど、もっと少ない米で作られたお酢が当たり前になってしまったということですね。

飯尾:そうです。だから「ダイアセチルを減らしたい」というのが、父の代からの課題でした。父は相当な熱の入れようで、今でも覚えていますが、私が高校1年生のとき、三者面談で「息子を東京農業大学醸造学科の柳田先生の研究室に行かせたい。そこでダイアセチルを減らすための研究をさせたい」と。

金丸:面談でいきなり言われたんですか?

飯尾:いえ、小学校の高学年くらいからずっと言われていたので、突然でもないんですけど。

金丸:すごいですね。ある意味、英才教育というか。

飯尾:私は小・中・高と地元の公立に通いましたが、高校は国公立理系クラス、いわゆる進学クラスだったので、周りのみんなは京都大学や大阪大学を狙っていましたね。

金丸:そんな中で飯尾さんは周りに流されることなく、東京農大を目指されていた。

飯尾:はい。当時、日本で醸造学科があるのは東京農大だけだったし、課題解決に一番近いのは間違いなかったので。

金丸:ところで飯尾さん、ごきょうだいは?

飯尾:私と、二卵性双生児の妹がいます。

金丸:双子の妹さんですか。ということは、飯尾さんが後を継ぐのは既定路線になっていたんですね。

飯尾:それが嫌だったわけじゃないですけどね。ただ学部を出て、大学院で2年研究したけど、解決につながるような成果は出せませんでした。

金丸:ダイアセチルを減らすというのは、それだけ難しいんですね。今更ですが、お酢を作る工程を教えていただけませんか?

飯尾:知らない方がほとんどだと思いますが、お酢って実は2回発酵させたら出来上がる珍しい調味料なんです。

金丸:私も今知りました(笑)。

飯尾:そうですよね(笑)。簡単に言えば、米から日本酒を作って、その日本酒からお酢を作るんです。玄米から玄米のお酒を作れば、それが黒酢になります。世界中でも同じように、ブドウからワインを作って、ワインからワインビネガーを作っているし、コスタリカだと、バナナからバナナのお酒を作って、そこからバナナ酢。あるいは、リンゴからシードル、シードルからアップルビネガーを作るという感じです。

金丸:2回発酵させるということは、菌の種類も別だし、設備も人もノウハウも余計に必要になるということですか?

飯尾:まさに。だから、すごい高コストになるんですよ。それを安く抑えたいなら、発酵を1回にすればいい。だから大量生産の場合、甘酒に醸造アルコールを加えて、「日本酒モドキ」を作って、それを発酵させてお酢にするんです。それだと使用するお米の量を減らせますが、旨みの少ない、酸味だけのお酢しか作れません。

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