2024.09.30
昨夏まで目黒区東山にコースのみを提供し、独創的な皿で圧倒的な支持を集める唯一無二の韓国料理店があった。
建物の老朽化など、諸事情から移転を決め、休業して9ヶ月。ついに、その『中目黒 若狭』が復活した。
場所は同じ中目黒。グレードアップを果たしたレジェンド店の“いま”を詳述する。
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韓国料理の本質を見極め、日本の高級食材で再構築した麗しき料理の数々
初めてならきっと面食らうに違いない。それほど“若狭”の皿は知っていた韓国料理と違う。その驚きは感動と言い換えることもできる。
移転後も方向性は変えず独自性を貫いており、象徴する一品にエビの醤油漬け「カンジャンセウ」がある。
コースによっては丸々一尾の伊勢海老を使って豪奢だが、一般的なそれと違って身は飴色に染まっておらず、生のような美しさ。食べれば、本来のねっとりした甘みを強く感じたあとでハーブに似た清涼感が香る。
この美味しさは素材を活かすため漬け込む時間を極力短くした成果。漬けダレに韓国の薬膳酒も忍ばせている。
コムタンで煮て旨みを含ませた春雨に韓国カボチャ、羅臼産生うにとズワイガニを乗せた「旬の海鮮とこだわり野菜のチャプチェ」。
溶ける食感に驚く「熊本あか牛のスユック」。本来は茹でる料理を低温調理でアレンジ。
白菜キムチで鮮魚2種と果物を包む「宮廷ポッサムキムチ」。
以上、すべて「若狭韓定食」(¥18,200)より。
その伝統料理の本質はどこにあり、どうすればもっと美味しくなるのか。そうした試行錯誤を、日本の優れた食材で試みた。
“若狭”の料理を簡単に説明するとそうなる。しかし、食材はすべて産地直送で、今日は何が入荷するか、いつも流動的。それゆえ、一期一会の料理も多く、通うたびに新たな発見がある。
大胆な意匠が主張するラグジュアリーな空間は畏怖さえ覚える
中目黒から中目黒へ。移転というと普通は都心に進出したり、スケールアップして席数を増やしたりするが、“若狭”は同じ街で、規模感も前店と変わらず、席数もほぼ同じ。厳密に言うと快適性を高めるため、個室はあえて席数を減らしたほど。
しかし、確実にグレードアップは果たされている。
たとえば、玉砂利に敷石のアプローチや、個室へ続く渡り廊下と中庭は、一軒の日本家屋を躯体にした新店だからこそ造り得た装置。
アプローチから個室に至る動線を辿れば、それがまるで高級旅館の離れに向かうような高揚感とお忍び感を演出するために必要不可欠だったと分かる。
新店も同じデザイナーが手がけており、温かみある雰囲気や左官仕上げでラグジュアリーな花の意匠など、大切だった部分は前店を継承しつつバージョンアップ。
前店での成長が最高潮に達して収まり切らなくなったがための移転、そんな物語を形にすべく、あらゆる趣向を凝らしたように見受けられる。
ふたりの決意と挑戦が、他に類を見ない韓国料理店を作った
「お客様から店に入り切らないぐらい、お祝いの胡蝶蘭が届いて思わず泣きそうになりました」と再開した今年4月を振り返る店主の若狭岳男さん。どれほど多くの常連が復活を心待ちにしていたか、うかがい知れるエピソードだ。
料理長の吉本宏光さんも「期待の高さに身が引き締まる思いでした」と語る。“若狭”は創業以来、ふたりで営まれてきた。
産声を上げたのは2013年6月。「最高の美味しさを韓国料理で表現する、ハイエンドなレストラン」。それが若狭さんの思い描いたスタイル。
実現のため、徹底したのは日本の優れた食材を探し出して韓国の伝統料理に落とし込み、その魅力を活かし切ることだった。
吉本さん曰く「どれも各地に足を運び、生産者と信頼関係を築いた上で仕入れるものばかり。野菜も魚介も品目を指定して買うのでなく、今日、送れるものを全部くださいというスタンス。調味など、個々の料理の基本的な構造は変わりませんが、入荷次第で材料はどんどん変わります」
人との繋がりを重んじる姿勢はサービスにおいても同様。新店でも引き続き、若狭さんが担当している。
「もともとは料理人だったんですけど、盛岡の焼肉店、東京の韓国宮廷料理店とキャリアを重ねてきた中で、最も大事と気づいたのが接客でした。難しいですけど、いまは本当に楽しい。
十人十色のお客様をお迎えするわけですから、一人ひとりに向き合うのはもちろんのこと、その日のご気分や体調なども勘案しながら日々、心を砕いています」
確かに、コースのみを提供し、支払う金額もそれなりになる“若狭”はハイエンドなレストランなのだろう。
しかし、たとえば予約は営業時間内ならいつでも受け付けるし、時間制限もない。「ご相談いただければ料理の変更なども考えます」と若狭さんが語ったとおり、さまざまな部分で柔軟に対応してくれる。
自由度はかなり高く、料理と空間の素晴らしさももちろんあって、一度知ったら、また必ず行きたくなるのだ。
「満を持しての移転です。すべてが進化したRe“若狭”を何卒よろしくお願い申し上げます」
笑う若狭さんと頷く吉本さん。このふたりがいる限り、この人気はずっと続く。
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