◆
翌日。
「いやぁすごい人だな〜」
「本当だねぇ」
私と龍之介は、予定通り浅草を訪れた。
雷門の前は、外国人や観光客が写真撮影をしたり、待ち合わせをしたり、とても賑やかだ。
『天麩羅 中清』でランチをして、人気の甘味処に並び、抹茶と小豆のかき氷をオーダーした。
デートらしいデートが久しぶりなのに、龍之介は今日もスマホばかり見ている。
「このあと、どうする?」
「う〜ん。もうお腹いっぱいだしなぁ…帰る?」
「早すぎだって。もうちょっと居ようよ」
「じゃあ、何するか瑞穂が決めて」
「……」
― 龍之介は楽しくないのかな。
朝イチで美容院に行き、着付けとヘアメイクをしてきたほど浮かれている私と、彼のテンションはまるで正反対だ。
「う〜ん。何か、体験系か、お買い物かなぁ」
「いいね!なんでもいいよ」
「なんでもいいと言われても…」
大手保険会社で総合職の私と、動画編集代行の会社を経営している龍之介。
今年で31歳になる私は、そろそろふたりの関係をステップアップさせたいと思っている。
しかし、そこには大きな壁がある。
私たちは完全にマンネリ化しているし、お互いを想う気持ちに差があるのも明らかだ。
― 龍之介は、私のことがもうそんなに好きではない。
繰り返す日々の中で、そう感じることが増えた。
だから、同棲の先にあるのは、別れなのか結婚なのか、そろそろ確かめたいと思っていた。この浅草デートは、未来の私のためのデートなのだ。
「江戸切子体験か、合羽橋まで移動して買い物するならどっちがいい?」
私は、溶けかけたかき氷を食べながら龍之介に聞いた。
「そこって、何があるんだっけ」
「お皿とか、調理器具…あとは食品サンプルも有名だよね」
「いいじゃん。何か新しい皿でも買おうか」
― 料理はしないのに、お皿に興味があるんだね。
私は、呆れながらも一緒に合羽橋へ移動した。
― ふたりで使う食器ね…。
新婚だったり、同棲したてのカップルだったら、楽しすぎる時間だろう。
けれど、龍之介との未来が見えない今、何を見ても欲しいと思えなかった。
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