「うん、いつも通り終電までなら」
「OK、OK!詳細はまた連絡するね〜!」
愛はそう言いながら、化粧室の個室に入っていった。
― 20時スタートか…終わるの遅そうだな。
実家住まいの私の家は、埼玉の川越駅からバスで20分のところにある。
だから、都内から帰る時はバスの終電時間も計算して、遅くとも22時半までには電車に乗らないといけないのだ。
愛からは「そんなマインドでは結婚どころか、彼氏もできない」と何度も忠告されたが“終電を逃すのはもったいない”という気持ちの方が勝る。
それに、埼玉に実家があるのに、東京に一人暮らしするのもバカらしい。
― まぁ、彼氏ができないのは実家暮らしのせいもあるっていうのは、認めるけどさ…。
愛は香川県出身で二子新地に一人暮らしをしているが、「世田谷に住んでいる」と小さな嘘をつくのが自己紹介の定番となっている。
彼女は、その嘘がいつか本当になることを信じて疑わないからすごい。
「毎晩外食しているから食費はほとんどかからないし、光熱費の節約にもなる。だからタクシー代は惜しまない」と聞いた時は、心から拍手を送った。
打算的で野心があるところは、私も少しは見習うべきなのかもしれない。
― なんていうか、地方出身者は強いなぁ…。
リップをポーチに戻しスマホを確認すると、ちょうど定時を1分過ぎていた。
私も愛も29歳。彼氏が欲しいのは当然で、近い将来、結婚だってしたい。
愛と食事会に行く最大の理由は、もちろんそこにあるのだ。
うちの会社にはお盆休みはなく、夏休みは交代制。だから社内で夏らしさを感じることはない。
今いい感じの男性がいるわけじゃないから、たとえ食事会でも私にとっては立派な夏のイベントになる。
それに、愛が幹事だとお店は間違いないし、男性のレベルも高く断る理由がないのだ。
この記事へのコメント
そんな女が美容外科医との初デートで終電を逃しましたとさ。それだけ? 夏休みの絵日記レベル。
一日の最後、働いてないじゃん。