2010.11.22
変わりゆく東京、進化するグルメ 「東京美食エリアガイド」 Vol.10気鋭のシェフが発信する、インタラクティブなレストランのあり方
遊び上手な大人の街だ。それは時代が変わった今でも、変わらない。
新しい店はより狭く、深い領域を目指す。それがやはり、相応しい。
2010.11.22
変わりゆく東京、進化するグルメ 「東京美食エリアガイド」 Vol.10遊び上手な大人の街だ。それは時代が変わった今でも、変わらない。
新しい店はより狭く、深い領域を目指す。それがやはり、相応しい。
「それぞれ独自性を持って料理に相対する、ふたりの教えを融合した店にしたい」
9月にオープンした新店でエグゼクティブ・シェフに就任した、生江史伸氏は言う。「ふたり」とはミシェル・ブラスとヘストン・ブルメンタールで、北海道『ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン』と英国にある3つ星店『ザ・ファット ダック』、2軒の名店でスーシェフを務めたのだ。
自然からインスピレーションを得て直感で作るシェフと、レストランと別にラボと仕込み用キッチンを構え、最先端料理で五感を刺激する時代の寵児。「ふたりの料理と人柄に惚れたんです。どちらも行ったのは偶然でなく必然」。
ディナーコースは2つ。アプローチは異なるが、ともに生江氏の今を表現していて、どちらも不可欠な存在ゆえ、ルミエール(光)とオンブル(影)と名付けた。デザートの前にチーズかサラダが選べる点も新しい。「完全有機栽培の生産者から仕入れています。新鮮で力強い味はフィナーレに相応しい」。
生江氏には志がある。それはレストランを、もっと美味しくて楽しい、インタラクティブな場所にしたいという思い。料理人と料理を食するゲストがそうした幸せを共有し、笑顔になって初めて、レストランはレストランたりうるのではないか──。その幸せが生まれる背景には生産者の存在もある。
「西麻布は僕が料理人としてのキャリアをスタートさせた街。当時は新しいレストランが次々に生まれた時代で活気があった。今度は僕が発信して魅力的な街にしていけたら本望」。シェフが挑む新しいレストランは西麻布の中心にあって、すでに輝きを放っている。
※こちらの店舗は現在閉店しております。
今年4月、西麻布交差点の裏手、閑静な一角にオープンした会員制料理『くすもと』は、不思議な魅力を湛えている。一見して何の建物かわからないモダンな家は、地階、1階、2階とフロアごとにエントランスが異なり、いかにもお忍びな佇まい。
住居だったことを窺わせる、個室主体。れっきとした“隠れ家”であるにも拘わらず、それを標榜する店にありがちな敷居の高さがまるでない。年会費は1万円とゆるく、料理代は極めて良心的。初回に限っては予約制で、お試しの利用もできる。
「お客様とはファミリーのような関係でいたいので、会員制。会費を頂戴するからには、完全なるプライバシーをというご要望から、ベビーシッターに子供を預けて美食を堪能したい、弁護士の会員の方から話が聞きたい…どんなわがままにも尽力します」とは、プロデューサーであり、ほとばしる情熱の人、大内美樹女史の弁。
大内女史や店主の楠本氏ら主要メンバーがかつて、ミュージカルカンパニーのための会員制サロンを運営していたためだろうか。『くすもと』には変幻自在に舞台を創り上げるような“創造性”が宿る。形にはまらないサービス。どことなく家庭的なニュアンスが漂う内装は、スタッフや友人らが一丸となって手掛けたもの。毎月、様々な異業種交流会も催している。
供されるのは、折り目正しき日本料理。のように見えて、楠本氏、実はフレンチ畑を歩んできたというから興味深い。例えば秋刀魚。塩で締めた後、太白胡麻油に浸してじっくりと火入れするフレンチの手法“コンフィ”を用いることで、芳しい肝の香りを逃さず、日本酒に合う最高のアテに仕上げている。あるいは名物「鯖の棒鮨」。塩締めする前に砂糖を使うマリネのひと手間をかけることで、よりまろやかな味わいとなる。
「地方の生産者、酒蔵の方々の想いも、料理を通じて代弁したい」と語る楠本氏の下へは、冬、築地の一級品や地方の隠れた名産の他、蝦夷鹿や猪(1頭丸ごと!)などのジビエが届けられる。新潟・久須美酒造の幻の酒「亀の翁」、神奈川「天青」などの美酒を片手に舌鼓を打ち、ほっこりできる悦楽のひと時。西麻布に欲しいのは、そんな心地よさを放つ隠れ家である。
熊本に母体があるバー。だが、メニュー数は“らしからぬ"充実ぶり。茨城県常陸太田産の蕎麦粉で打ち上げた蕎麦や、さまざまな部位を供する特選馬刺盛り合わせ、おでんを揃える。深夜の名店だ
『レ・ビノム』の姉妹店。こちらは、おでんとワインを謳い、住宅街の路地を入った一軒家を舞台に、オーナーソムリエの徳原誠氏とシェフの野尻晴雄氏が供す。料理とおでんで構成するコースは8,400円~。
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