東京エアポケット Vol.23

「GWが憂鬱」LINEの友達は190人もいるのに、誘える相手は1人もいなくて…

ほどなくしてたどり着いたのは、『THE BLUE』。

青空のような爽やかなブルーがイメージカラーのカフェ&ダイニングを、Instagramで偶然見つけたのだ。

そもそも店名が“BLUE”だし、たまたま予約が取れた窓際の席には、コロンとしたブルーのエッグチェアが2脚。

座るとすっぽり体が包み込まれて、まるで海の中のようなブルーの世界に深々と沈みこんでいく。

「何だか、ここにいるだけで良いことが起こりそう」

注文したサラダランチは、ボリュームたっぷり。シャキシャキとした葉物野菜に、ゆで卵、ベーコンがゴロゴロのっている。

弾力のあるイチジクや、カリカリした食感を楽しめるナッツも散りばめられていて、フランボワーズビネガーをかけて食べるとパァッと華やかな酸味が鼻へ抜ける。

食後には、目当ての「ザ・ブルー」。店名と同じ名前のケーキが運ばれてくると、思わず目をみはった。

― 写真よりも実物のほうが素敵っていう…希少なパターン!

テンションは最高潮だ。

キラキラ・つやつやと輝くブルーのハート型のケーキは、“宝石ケーキ”の呼び名にふさわしい。スッとフォークを入れると、中にはバニラムースとカシス果肉入りのジュレ。

プルンとしたかと思えばホワホワと軽い食感で、「ケーキは別腹」という言葉がピッタリだ。

濃厚なバニラの風味のあとを、絶妙なバランスの甘酸っぱさが追いかけてくる。おまけに、丸い粒状のパールクラッカンチョコレートが口の中でプチプチとはじけた。

「はぁ…美味しい。幸せ…かも」

視覚からも、食べものからもブルーを取り入れた。でも、まだ終わらない。

― 来週は、あそこに行こう。

私は、鞄にしまってある占い本の背表紙を軽くなでる。




翌週、4月の3週目。

私は、鎖骨下まで伸ばしていた髪を、あごのラインでカットすることにした。

4月の美容・健康運をチェックすると、髪型を変えるといいと書かれていたのだ。

“モテ期に備えて美意識を高めよう”。その文言についつい心が踊り、期待が湧いてくる。

カラーリングは、ダークブラウンに決めた。

これまでは「ファッションエディターとしてオシャレに見られたい」と、ブリーチをして赤みを削ったミルクティーカラーが定番だった。

けれど、柔らかさとは縁のない顔立ちとハイトーンカラーの組み合わせは、どことなく近寄りがたい雰囲気を醸しだしてしまう。

だから今回は、親しみやすいカラーを意識したのだ。

いつもよりランクの高いトリートメントを施してもらうと、頭頂部には天使の輪が輝く。それに、年相応の大人の品のようなものが感じられた。

「紗織さん、このカラーとってもお似合いです。表情も明るく見えますし」

「本当?実は…私も、ドライヤーの最中からそんな気がしてたんだよね。嬉しい、ありがとう」

軽い足取りでヘアサロンをあとにすると、ふとあることを思った。


洋服やランジェリーへのこだわり、体と心が満たされる食事、見た目の変化…。

― どれも開運のためにとった行動だったけど、結局は自分の機嫌が良くなってるんだよね。

気分が上がった私は、帰宅後、水回りや玄関の掃除をした。カーテンまで洗濯し、一層清々しい気分になる。

仕事に取り組んでみたら、集中力が格段に上がっているのを感じた。

タスクがどんどん進むと、これまでカツカツだったスケジュールに余裕が生まれ、イライラもおさまる。

― 思ってたよりも、ずっといいGWを過ごせる予感がしてきた!



そして、翌日。

もともと勤めていた出版社で、いつもの編集部ミーティング。その終わりに、珍しいことが起こった。

仕事仲間が、突然声をかけてきたのだ。

「いよいよ連休ですね。長谷さん、GWにみんなでバーベキューをするんですけど…よかったらいらっしゃいませんか?」

― え、誘ってくれるの…?

自分がバリバリ働いていたときとは、すっかり代替わりした編集部。

打ち合わせのたび、自分だけどこか浮いている気がしていたし、事実こういう誘いはめったになかった。

そんな状況をどこか寂しく思いながらも、“群れない私”を演出し続けていた。

誰かを誘ったり、必要以上に親しくしたりしようとしない。クールで大人な私として一線を引いて振る舞うことで、みんなになじめない自分を、強がりながら守っていたのだ。

― もしかしたら、今までの私…不機嫌そうに見えてたとか?最近よく聞く“フキハラ”…ってやつじゃ…。

疎外感は、自分の態度や行動が作りだしていたものだったのかもしれない。

私は、心からの笑顔で答えた。

「バーベキュー、いいですね!私もぜひ参加させてください」

当日は、前から少し気になっている林くんという7つ下の副編集長も来るらしい。

― 何を着ていこう?ブルーもいいけど、ラッキーカラーでもトレンドカラーでもない、私が本当に好きな色…がいいな。

パッと浮かんだのは、新緑のようなグリーンのサマーニットだった。

きっと今なら、どんな色を身にまとってもご機嫌だ。

ちょっと占いに乗ってみるつもりの軽い気持ちが、結果として、スーッと楽に呼吸ができる軽やかな日々を運んできてくれた。

ぽかぽかとした春の陽気はまだ続く。何だか今年は、本当に良い1年になりそうだ―。


▶前回:SNSで彼氏が結婚をすることを知った女。呆然とする中、思いついた最高の復讐とは

▶1話目はこちら:見栄を張ることに疲れた30歳OL。周囲にひた隠しにしていた“至福のご褒美”とは

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この記事へのコメント

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No Name
キレイな色のケーキ💙
ブルーは食欲減退カラーでもあるのに、ライターさんの書き方が素晴らしいのですごく美味しそうに伝わりました。 前半はフリーランスならGW働いて混雑を避けて翌週から一人海外とか気楽に行くのも良いのになぁと思いながらも、最後は大開運の時期!?に入りテンションも上がって恋も良い方に進みそうで、すごく前向きに終わって良かったです。
2024/05/06 05:4339返信2件
No Name
連休だったから今日読める連載ないかな?と思って開いたら久々のエアポケットが更新されていて嬉しくなった! しかもあの林優斗氏を気になってるだなんて....♡ どんなBBQになるのか彼との恋愛も含めて、続きを是非読みたいですね。
2024/05/06 05:2738返信1件
No Name
占いにどっぷりハマるのではなく、自分の機嫌を取る為の行動だと気付く冷静な部分もちゃんとあって安心しました。これからの人生が開けるといいな。
2024/05/06 06:4924返信2件
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