報われない男 Vol.4

「夫に、朝帰りしたことを知られたくない…」ストレス解消で若い男の家に泊まった34歳人妻の本音

「オレが稼ぐから、生活の心配をせずに、キョウちゃんは好きな世界に没頭してほしい。オレ、キョウちゃんの書く世界が本当に好きだから、一生そばで支えたい。結婚してください」

プロポーズの言葉。京子が胸を打たれ、一生の宝物となった崇の言葉。ずっと大切にしてきたその言葉を。

― この子にも言った…?

「実は、私も映画を作っていて。崇さんとはワークショップの講師と生徒として出会ったんですけど…」

美里の声がどんどん遠くなり、指先から一気に血の気が引いていく。目の前が暗くなり倒れそうになり…美里の前で失態をみせることだけは避けたいと、京子はその場から逃げだしてしまったのだ。



― 気づいたら生徒の家だなんて。

大輝の家から戻って一時間程たっても、京子は全く落ち着けずにいた。体は重く疲れはひどい。ベッドに入ってみたりもしたけれど、思考が邪魔をし目はさえるばかりで京子は眠ることをあきらめ、シャワーを浴びることにした。

湯船につかりながら大輝の言葉を思い出した。

「残念ですが、まだ僕たち何もしてません」

大輝の家にいるのは、どうしても家に帰りたくないと京子が騒いだからだ、と説明された。

甘いものが食べたいとコンビニに寄り、買って帰ったショートケーキを食べながら京子はうとうとし始めたらしい。スーツがシワになるからとスウェットを借り、バスルームで着替えたところまでは自力で、着替えた後ソファで眠り始めた京子をベッドに運んでくれたのは大輝らしい。

京子さんと呼ぶことを許可したということも、もちろん記憶にない。京子は大きなため息をつく。

― 私、何やってるんだろう。

京子は後悔していた。大輝の家を出てタクシーに乗った時、真っ先に頭に浮かんだこと。それは。


― もし、カドくんが帰ってきてたら、なんて言い訳しよう。

ということだった。

夫に自分の朝帰りを知られたくない。違う男のベッドで寝たとばれることのが怖い。そして気づいてしまった。

― 私は、カドくんを失いたくないんだ。

京子がずっと大切にしてきた言葉を、美里にも言ったと聞いた時、逃げ出してしまう程のショックを受けてしまったのも。

― 私が、カドくんの唯一無二でありたいからだ。

この状況でその思いが明確になるなんて…と自虐的な笑いを浮かながら、京子は湯船から上がった。パジャマに着替えてから携帯を手にとるとLINEがきていた。

≪無事に帰れましたか?今日はゆっくり寝てくださいね≫

大輝からのLINEだった。IDを交換した記憶はないけれど、おそらくこれも酔いの仕業だろう。京子はそのラインに返事をせぬまま、崇に電話をかけた。


▶前回:朝6時に目が覚めると、自分の家ではないことに慌てた34歳女性。物音がする方向に行くと…

▶1話目はこちら:24歳の美男子が溺れた、34歳の人妻。ベッドで腕の中に彼女を入れるだけで幸せで…

次回は、3月9日 土曜更新予定!

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この記事へのコメント

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No Name
キョウコ先生のファンだったんです! って、それなら普通そんな方の夫と平気で不倫出来ないよ。 生活のサポートしてる夫も悪いし。
2024/03/02 06:3231返信2件
No Name
こちらも読み応えあり
2024/03/02 06:1021返信2件
No Name
大輝は京子さんに恋をしながら、タカラをデートに誘ってピンチを救ったんだね。ありがとう。

今の20代も、【◯◯に100万点】とか使うんだね。子どもの頃に見たクイズダービー以来だよ、そんな表現。あの頃は、はらたいらさんが何者なのか分からなかった。正体が分かったのは、彼が亡くなった時。

しかし、長坂美里の話は矛盾しないけど嘘くさい。京子さんと大輝の関係と大差ないのかも知れない。
2024/03/02 06:2712
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