前回:「朝帰りを咎められたらどうしよう…」秘密を持った妻が確信した、夫への想いとは
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「お2人、もう少し近づいてください。そうそう!もっとぐぐっと!いいですね!」
何度も繰り返されるシャッター音とフラッシュの光には、いつまでたっても慣れないものだと京子は思う。今日は夫婦で撮影をしている。京子が脚本、崇が監督した映画の劇場用パンフレットに使うための写真だ。
「じゃあ次は監督がキョウコ先生の肩を、ぐっ!と抱き寄せる感じで!」
カメラマンの指示に、崇がぎこちない笑顔を見せて、京子の肩にそっと手をまわした。この撮影が、家を出ていった崇と京子の一週間ぶりの再会だった。
「電話…出なくてごめん」
一週間ぶりの再会で、崇が最初に発した言葉はそれだった。京子が大輝の家から朝帰りしてしまった日にかけた電話にも崇は出なかったが、その翌日、来週の写真撮影の後に話せたら、というLINEが送られてきた。それは彼が家を出て以来初めての返信だった。
崇に言われるまで、この撮影があることを忘れていた京子だったが、話をできる日が確定したことで少しホッとした。
― 少しやつれた気がする。
並んだ崇の横顔を見上げながら、京子はそう思った。
「はいじゃあ、次は見つめ合ってみましょうか!カップル感強め、ラブラブなご夫婦って感じを演出しちゃってください!」
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