2024.02.24
報われない男 Vol.3前回:「彼の子どもがほしい」妻の職場に届いた一通の手紙。夫のストーカーかと思い、家で尋ねると…
◆
この日の京子の講義テーマは『物語における複数人の視点』だった。講義までに読んでくるように、と京子が学生たちに指示を出していたのは、芥川龍之介の『藪の中』だった。
文庫本に収められると、わずか20ページほどという短編で、有名な作品でもあり、黒澤明監督も羅生門という映画で描いているので、もともと知っていたという学生もいたかもしれない。
『藪の中』という小説は、平安時代、昼でも薄暗い藪の中で26歳の男が殺された、という殺人事件にまつわる7人の証言だけで構成されている。
登場人物は、遺体の第一発見者、目撃者、容疑者の男、容疑者を捉えた役人、死んだ男の妻、その妻の姑、さらに死んだ男の霊を憑依させた巫女、の7人。
ところが、それぞれの証言は大きく食い違い、真実がわからないまま物語が終わる。《真相は藪の中》という言葉の語源にもなった小説だ。芥川龍之介は、この小説で一体何を伝えたかったのかと評論家や専門家たちの間で今だに議論が続いている、謎の多い作品でもある。
実は、京子にとってこの『藪の中』は、脚本を書く前に儀式のように読み直す大切な作品で、そのことを知っているのは夫の崇だけだった。
「皆さんは、誰の証言を真実だと思いましたか?」
京子の問いに、学生たちが順番に答えていく。
通常、真実は1つとされるのが世の常で、ある出来事に対して何人かの証言が食い違った場合、《誰かの言葉を信じるなら、誰かの言葉は嘘》となる。だが、京子がこの藪の中から学び、仕事の指針としている考え方は、その世の常とは少し違っていた。
「僕は、誰の証言も正しくない…完全な真実とは言えない、のだと思います」
そう答えたのは、友坂大輝だった。京子が、どうして?と先を促す。
【報われない男】の記事一覧
2024.04.06
Vol.8
「恋がどういうものか、教えます」出張先の公園で、彼女の手を握り…
2024.03.30
Vol.7
「22時までに夜桜を見たい」地方出張中に上司を先に帰らせ、意中の彼女と…
2024.03.23
Vol.6
「彼女と私、どっちも好きなの?」妻の質問に否定しない夫を置き去りにし、家を飛び出て…
2024.03.09
Vol.5
「離婚したくない」一週間ぶりに家に帰ってきた夫から、まさかの告白。妻は…
2024.03.02
Vol.4
「朝帰りを咎められたらどうしよう…」秘密を持った妻が確信した、夫への想いとは
2024.02.10
Vol.1
報われない男:24歳の美男子が溺れた、34歳の人妻。ベッドで腕の中に彼女を入れるだけで幸せで…
おすすめ記事
2024.02.17
報われない男 Vol.2
「彼の子どもがほしい」妻の職場に届いた一通の手紙。夫のストーカーかと思い、家で尋ねると…
2019.03.07
噂の女
噂の女:悪魔のように美しい女を狙う、小賢しい男。常人には思いつかぬ方法で彼女の心を掴んだ夜
2023.07.21
東京レストラン・ストーリー
大好きだった彼女が結婚する。彼女の“2番手”だった男2人は、彼女の結婚式当日…
2018.09.29
黒塗りの扉
時代の寵児と呼ばれた男の、知られざる過去。子持ちバツ1女性を妻にするに至った、強烈なる欲望
2021.01.06
ねぇ、いくつに見える?
ねぇ、いくつに見える?:初対面の男に年齢をサバ読みした女。別れ際、彼から告げられた恥ずかしい一言
2016.05.01
独身貴族
東京カレンダー的「独身貴族」 6つの定義。あなたはいくつ当てはまる?
2016.10.30
結婚ゴールの真実
結婚ゴールの真実:小遣いより高い保険料と毎月増えるルブタン...ポンコツ嫁に怯える夫
2018.06.02
崖っぷち妊活物語
「産まない女」と「産めない女」の違い。絶望を知ったエリート美女が、それでも母になりたい理由
2021.04.04
明日、世界がおわるなら
優しい彼氏に「頭を冷やせ」と突き放された女。会社を毎週休むほどハマってしまったこととは
2017.01.22
結婚ゴールの真実
結婚ゴールの真実:年収1,000万の社畜夫。日本の悪習「飲みニケーション」代は、月30万
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.04.23
今日、私たちはあの街で
3回目のデートで、終電を逃した28歳女。翌朝、男が激しく後悔したワケ
2024.04.23
Editor's Choice~fashion~
最大10連休のGWのお出かけに!カラフルなミニボストンバッグが、万能な理由とは?
2024.04.25
Editor's Choice~beauty & wellness~
すれ違ったときに香るぐらいが好印象!大人のニオイ対策には、上質なランドリーアイテムを取り入れて
2024.04.26
大人の週末ToDoリスト
GWは東京でヨーロッパ旅行気分! 『イタリア展 2024』や『フランス展 2024』などイベント3選
2024.04.28
Editor's Choice~gourmet~
最高に気持ちいい空間で、ラグジュアリーな外飲み体験!今から楽しめるビアガーデン6選
この記事へのコメント