SPECIAL TALK Vol.113

~学問という知的な武器を子どもたちに。学びの体験をアップデートして日本を変える~


これから求められるのは「エモーショナルな仕事」


金丸:探究学舎の話に戻りましょう。気になるのが、子どもを通わせたいと思っているのは、父親と母親のどちらですか?

宝槻:母親ですね。

金丸:そんな気がしていました。大企業に勤めている自分の旦那さんを見て、「これじゃいかん」と思っているのかもしれない(笑)。まあ、そうじゃなくても、女性の方が「これから先は、いままでと同じじゃダメだ」と感じていると思います。

宝槻:親御さんには大きく分けて、2タイプいらっしゃいます。ひとつは、写真家や料理人のように好きなことを仕事にされている方。もうひとつは、両親ともに高学歴という方。

そういう方たちは「もう自分の再生産はいいんじゃないか」と考えているようです。

金丸:周りに言われるままいい大学に行き、大企業に入ったけれど、そのリターンがそこまで魅力的ではなかった、ということですかね。

宝槻:そういうことですね。「あるがままの個性を尊重して、好きなことに夢中になってほしい」。そう感じている40代の親御さんは、確実に増えています。

金丸:では、団塊ジュニア世代はどうですか?

宝槻:僕の感覚だと乖離がありますね。受験戦争の最初の世代ですし、生き抜いてきたという自負がある。だから「子どもも自分と同じような道を歩くべきだ」と考えている方が多い。

金丸:団塊ジュニアは、20歳前後からずっとデフレで、世界の成長からも取り残されてきたのを目の当たりにしてきた世代です。それなのに軌道修正できないなんて、私からすればあり得ない。

宝槻:うちの生徒たちにも話しているのですが、世の中の仕事は「ファンクショナルな仕事」と「エモーショナルな仕事」の2種類があります。電気、水道、通信などのインフラ、自動車やITなどは、生活を便利にするファンクショナルな仕事です。

金丸:アートやスポーツが、エモーショナルな仕事ですか?

宝槻:そうです。音楽や演劇、料理など、人を感動させる仕事ですね。20世紀はファンクショナルな仕事が経済を支えていました。

金丸:その担い手が大企業だったから、大企業に入ることに一定のメリットがあった。

宝槻:でも、これからの時代は、ロボットやコンピュータに代替されていくはず。一方、エモーショナルな市場は、どんどん拡大しています。

金丸:確かに市場は拡大していますが、それで食べていける人の数が少な過ぎるのが、すごく問題だと感じています。いまはほとんどの制度が、ファンクショナルな仕事をする人向けに設計されているので、エモーショナルな仕事をする人たちと、それを支える人たちをもっと増やさないといけないし、制度も作らなきゃいけないと思います。

宝槻:おっしゃるとおりです。大企業のサラリーマンになって安定を得るというのは、もはや昔話だと思っています。その方針で行く限り、日本の国際競争力は衰えていくばかりです。

金丸:学校教育が「国語・算数・理科・社会」の点数にこだわっている限りは、日本はダメですね。

宝槻:日本が優位性を持っているのは、アニメや漫画じゃないですか。これって、日本の文化には競争力があるということなんです。最近の私の言い方だと、「テロワール」。

金丸:土壌ですね。ワインはテロワールと結びついているから、同じブドウの品種でも、違うワインができあがる。

宝槻:ワインにお詳しい金丸さんの前では、釈迦に説法かもしれませんが、文化は100年、テロワールは1000年と言うらしいです。日本はテロワール抜群の国だからこそ、それを発信できるエモーショナル系の人材を育てないといけません。

金丸:それが、探究学舎の役割なんですね。

宝槻:そのつもりです。エモーショナル系の仕事は、好きなこと、得意なこと、やりたいことをとことんやる、ということです。さかなクンさんや大谷翔平選手なんて、分かりやすいじゃないですか。

金丸:誰も彼らに「これをやれ」とは言っていませんからね。

宝槻:僕は30年後、50年後に、そういう人たちがあふれかえっている世の中を作りたい。そのために、「この世界には驚きと感動の種があちこちにあるんだよ」ということを、子どもたちに教えたいんです。

金丸:日本の未来に希望を持ってもいいですか?

宝槻:希望はありますよ。親世代の意識が変わりつつあるし、エモーショナルな仕事の世界においても、イノベーションを起こそうという気概のある人たちがたくさん出てきていますから。

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