SPECIAL TALK Vol.113

~学問という知的な武器を子どもたちに。学びの体験をアップデートして日本を変える~


高校を中退するが、父の指導で京大に進学


金丸:高校を中退されたということですが、「行かなくていい」とお父様がおっしゃったんですか?

宝槻:いえ、言い出したのは僕です。県立の進学校に通っていたのですが、管理主義が嫌になっちゃって。

金丸:辞めるほど嫌だったのは、どんなところですか?

宝槻:夏休みが40日あったら、30日は授業があるという学校で、いつも「時間を奪われている」と感じていました。高校時代の3年間を受験勉強だけに費やすのはもったいないじゃないですか。そうじゃなくて読書とか旅とか、感性を磨くために時間を使いたい。

金丸:私も似たような学校に通っていましたが、私の場合、先生が私を辞めさせたがっていたので、それに反発して辞めませんでした(笑)。

宝槻:反発の方向性が、僕と真逆ですね(笑)。

金丸:でも、学校は社会との接点でもある。辞めてしまって、家にいる時間が長くなった分、つまらなくはなかったんですか?

宝槻:それが、17歳から近くのバーに通っていたんです。小さなお店ですけど、10歳ぐらい年上のお兄さん、お姉さんたちの30人ぐらいのコミュニティがあって。そこで受ける刺激は、同級生よりも遥かに刺激的で濃かった。

金丸:宝槻さんにとっての社会は、そのバーだったんですね。

宝槻:ロックンロール、F1、サッカー、ファッション……。いろいろなことを教えてもらいました。

金丸:家でお父様と勉強し、同級生と遊ぶかわりにバーの人たちと交流して、京大に進学。もうその時点で、普通のサラリーマンになる人生が消えましたね(笑)。

宝槻:弟ふたりは最初から高校に通いませんでしたが、彼らもいまは経営者になっています。

金丸:身近にサラリーマンのモデルがいなければ、そうなりますよ。お父様以外にも近くに経営者や起業家がいらっしゃるんですか?

宝槻:いえ、親戚の中でうちだけおかしいんです(笑)。僕のなかで父は、「フーテンの寅さんの現代版」みたいな存在です。

金丸:お父様の影響は絶大だったんですね。ところで、お母様はどんな方ですか?

宝槻:父とは全然違うタイプですね。「人間は優しさが大事だ」「人をいたわらなきゃいけない」と言われて育ちました。

金丸:すごい。ご両親で補完し合っているんですね(笑)。

宝槻:まさに。母のご先祖様は宮古島の王様で、古墳に納まっているような血筋です。だから、立ち居振る舞いが上品なんですよ。父方は水戸藩士で、桜田門外の変に参加したとか。

金丸:絶妙なミックス。

宝槻:ロイヤルな母がフーテンの寅さんにかっさらわれたようなものかなと思っています(笑)。

金丸:ちなみに、まだ宮崎に家はあるんですか?

宝槻:僕が京大に進学したあと、家族全員で京都に引っ越してきました。父は「九州脱出だ」と。

金丸:自分で行っておいて、脱出も何も(笑)。

会社勤め経験ゼロで教育分野で起業


金丸:京大にいたときから、いまのような事業をやることを考えていたんですか?

宝槻:20歳ぐらいには、教育に携わりたいと考えるようになっていました。当時は文部科学省に入るとか、NHKに入局することも選択肢にありました。『NHKスペシャル』のような番組をたくさん観て学んできたので、教育番組を作るのもいいな、と。

金丸:でも結局、起業された。

宝槻:はい。大学を出てすぐに。父もサラリーマン経験ゼロで起業していますし。

金丸:本当に素直ですね(笑)。

宝槻:お聞きしたかったんですが、金丸さんは何がきっかけで起業されたんですか?

金丸:ビル・ゲイツに出会ったことが大きいですね。

宝槻:えっ、本人に会ったんですか!?

金丸:そうですよ。私が26歳のときに。当時は日本のベンチャー企業に勤めていて、マイクロソフトは取引先でした。彼は私の1歳年下ですが、19歳で起業しています。それ自体も驚きですが、さらに驚いたのが、ほぼ無名だったビル・ゲイツに超巨大企業のIBMが仕事を依頼したことです。アメリカの価値観に衝撃を受けました。

宝槻:それまでは、金丸さんも、いわゆるサラリーマンだったということですか?

金丸:会社では完全に浮いていたので、「いわゆる」ではないですね(笑)。でも、起業するために辞めようとしたら、「辞める前にあれをやってくれ」「これをやってくれ」と次々に仕事が。

宝槻:それは、優秀な人を手放したくないから。

金丸:宝槻さんのように、京大卒や東大卒で「起業したい」という人は結構いますが、実際に起業するのはひと握りです。そういう人たちに「どうして起業しないの?」と聞くと、「今、勉強中なので」という答えが返ってきます。

宝槻:僕なんて、ほとんど何も分からない状態で起業しましたけどね。

金丸:そう!頭でっかちだと、いつまで経っても起業できません。起業家のためのスクールに通って理論や理屈を習うより、一歩を踏み出さないと。スーパーマーケットチェーンのウォルマートが、世界一になった理由はなんだと思いますか?

宝槻:え?物流に力を入れたからですか?

金丸:そうです。だけど、創業者のサム・ウォルトンは最初から「物流に力を入れたら勝てる」と考えていたわけじゃない。彼の奥さんは大きな都市が苦手で、自然豊かな町での暮らしを望みました。だから田舎町のお店まで効率よく配送するためには、まず拠点となる物流センターを作ることが必要だと考えたんです。

宝槻:なるほど。最初から戦略論があったわけではなく、ある種の制約がイノベーションにつながったんですね。

金丸:そういう話を聞くと、成功するかどうかなんて、紙一重の差だと感じます。

宝槻:だけど起業しない限り、成功はないですね。

金丸:まさに。少し前、ある受験予備校で講演したときも、私は延々と「大会社に行くな、ベンチャーに行くか起業しろ」と訴え続けましたよ。

宝槻:その子たちに金丸さんの言葉がどのくらい響いたでしょうね。きっと親たちは「いい大学に行って、大企業に就職してほしい」と考えているはずですから。

金丸:だけど、こういうのは言い続けないといけない。いまだに「なぜ日本ではGAFAM(世界的IT企業の大手5社、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)が生まれなかったのか」と、大企業経営者の方々からよく聞かれます。

宝槻:そんな、日本の風土じゃ生まれないですよ。もしIBMが日本企業だったら、ビル・ゲイツに発注していないだろうし。

金丸:それに、ビル・ゲイツもスティーブ・ジョブズも、最近話題になったOpenAI社のサム・アルトマンも、みんな大学中退です。もし彼らの親が中退を許さず、彼らが卒業まで大学に縛られていたら、ビジネスの旬を逃していたことでしょう。彼らは大学を辞めてでも、ビジネスに乗り出したかった。

宝槻:「大学中退」と言ったら、日本ではいまだにマイナスイメージしかありません。

金丸:やりたいことや、やらなきゃいけないことがあるなら、「中退して何が悪い」という話ですよ。

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