今日、私たちはあの街で Vol.2

上京4年の26歳女子。美人で性格良しの芦屋育ちのお嬢様が、アプリで男から避けられる理由とは

残されていた留守番メッセージを聞いてみる。

『美香ちゃん、調子はどう?今年は年始に会えなかったけど、東京で楽しく過ごしたのかな。また、電話しますね』

残されていたメッセージは、神戸の実家にいる母からだった。


― 調子はどう?って。つまり「いい人はいないの?」ってことね…。

相変わらずの母の心配性ぶりに、美香は思わず深いため息をついた。

自慢じゃないけれど恋愛事情は、全くと言っていいほど上手くいっていない。

甲南女子大学を卒業すると同時に上京して、4年。

就職した専門商社での仕事はやりがいがあり、可憐のような気の合う親友もできた。

週末には美味しいレストランに足を運び、ワクワクするような新しいスポットを巡り、充実した毎日を送っている。

学生の頃から憧れ続けた東京で、理想の20代の生活を送っているという自負が、美香にはあった。

しかし…。

― 恋愛だけは、どうしてもダメなのよね…。

大学卒業まで関西にいた美香にとって、東京での人脈は限られており、男性と出会うチャンスはそうあるものではない。

会社以外の交友関係を広げるため手っ取り早くマッチングアプリを始めてみたものの、思ったような成果はなかなか出せずにいるのだった。

男性とマッチングしないわけでは決してなく、食事やデートを楽しんだ経験もある。

けれど、そのうちの何人かからは…出会ったその日に、いきなり一夜を共にする誘いを受けることがあったのだ。

美香は早急な関係の進展は望んでいなかった。2、3度のデートを重ねて、互いの理解を深める。好意を抱いたもの同士が、恋人へと発展する。少なくとも神戸にいた頃、学生時代まではそうして恋愛をしてきた。

だけど、そうした堅い考えを前面に押し出すと、なぜだか男性たちは離れていく。

「美香ちゃんって、見た目に似合わず堅いっていうか…古臭いんだね」

「え?そう…ですか?」

メイクやファッションが好きな美香は、確かに、どこからどうみても大人しくて楚々とした淑女に見える…というタイプではない。

社交的な性格のせいか「ノリがいい」と言われることもあるため、もしかすると、男性からみると軽く見えるのかもしれない。

でも…。

「母親はもちろん父親とも仲良しで。東京にもよく遊びに来るの」

「白金のマンションは芦屋時代から面倒を見てくれている奥様がオーナーで…」

大好きな家族や自分の生い立ちについて話せば話すほど、男性の顔は飽き飽きしていく。

「なんか、ごめん。思ってた感じの子と違ったかも」

保守的な上に、芦屋育ち、白金在住、甲南女子大学卒という美香のスペックは、これまでアプリで出会ってきた男性たちにとっては、あまりウケのいいものではなかったのだ。

互いのことをよくよく知ってから、恋愛をしたい。そう願っているだけなのに、どうしても出会いに恵まれない。

それとも、王道だと思っていたこういったスローステップな恋愛は、いまの東京ではズレているのだろうか?

可憐への複雑な思いも相まって、自分の恋愛がうまくいっていないことが、改めて憂鬱な現実としてのしかかってくる。

― 春まで何も変わらなかったら、神戸に帰ろうかな。

季節ごとに異なる花や街路樹が風に揺れる、懐かしい神戸の街並み。丘から見える、陽光が水面に輝き優雅な船の行き交う海岸線…。

美香は地元を恋しく思いながら、何気なく手元のスマホで久しぶりにアプリを開く。

そして無意識のうちに、関西在住の男性たちのプロフィールばかりを眺め始めるのだった。



新たな出会いにも疲れ、バレンタインに浮いた話もなく、ひとりで2月の連休を迎えた美香。

せっかくの3連休、映画でも観に行こうかな…とスマホを手に取ったその時。

忘れかけていたマッチングアプリのアイコンに、DMが届いていることを示す赤い印が付いていることに気がついた。

アプリを開いてみると、DMをくれたのは健康的で爽やかな顔立ちの男性。

『はじめまして、麻人(あさと)と申します。美香さんは神戸出身なんですね。ちょうど先週訪れ、街並みがとても素敵でした。同い年なので、よかったら仲良くしてください』

麻人からのメッセージは、長々とした自己アピールや定型文ではなく、同年代らしい簡潔なものだった。

― いいかも…。あれ?この人、大阪に住んでるんだ。

なぜ東京に住む私とマッチしたのだろう?と思うが、自分自身も関西の男性のプロフィールを眺めていたのだから、不思議なことではないのかもしれない。

興味を持った美香は、さっそく彼に返信を送った。


メッセージのやり取りをしていくうちにわかったのは、麻人が大手広告代理店の大阪支社で働いており、春に東京への異動を控えているということだった。

東京に住む美香とマッチングした理由が分かった美香は、一気に麻人への興味が湧いてくるのを感じる。けれど、今までの“黒歴史”のことを考えるとどうしても自身のことを事前に多く語る気にはなれず、まずは麻人に会ってみたいと強く思った。

そんな美香の気持ちを察してくれたのだろう。「会ってみたい」という美香の希望を、麻人はすぐに快諾してくれた。

トントンと話は進み、初めての顔合わせの日が決まる。

翌週の、木曜日。

麻人が新居探しに東京にくるというその日に、夜に夕食を共にすることになったのだ。

この記事へのコメント

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麻人さんいい人そうだよね。美香は今までモテなかったのを黒歴史と言うけれど、自分が東京の男子とは合わないと勝手に思っていただけかな。あと芦屋時代だの白金のマンションは....など早い段階で余計な事言うから勘違いされてたのかも。
2024/02/20 05:2039返信3件
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甲南女子大学卒だと男ウケが悪いらしい?
いやその前に知らない。 京大・阪大や関関同立なら関東の人でもよく知ってるけど甲南女子言われても.... 関西ではどんな評価なのかさえ知らん。学費高くて親が裕福じゃないと行けないのかな、検索したら偏差値40〜になってた。
2024/02/20 05:5026返信8件
No Name
東京は古いものを破壊しながら無機質な未来へ向かってるように思えるが。何とかヒルズ増えまくりでウンザリする。
2024/02/20 07:4221返信1件
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