2023.10.20
SPECIAL TALK Vol.109
10年以上続けて初めて「下手」と言われた衝撃
金丸:中学校では書道部に所属されたんですか?
青柳:いえ、中学も高校も部活には入らず、お教室に通っていました。
金丸:それがよかったかもしれません。学校の部活って独特の世界観があるじゃないですか。中には、細かいところばかり気にする減点主義の先生もいますし。ちなみに今の道に進むことは、いつ頃から考えていたんですか?
青柳:高校の最後まで進学するか、就職するかでふわふわしていたんですよ。そしたら、国語の先生だった当時の恩師が「おまえ、何言うてんねん」と。
金丸:怒られたんですか?
青柳:逆です。「おまえの書道は素晴らしいから、書道を極めるべきや」って、背中を押してくださって。
金丸:素晴らしい先生ですね!
青柳:それで、書道の専門コースがある梅花女子大学に進学することにしました。ただ、最初の書道の授業で、先生に「下手やなあ」と言われて……。
金丸:生まれて初めての経験じゃないですか?これまで褒められて育ってきたのに。
青柳:そうなんですよ。ずっとお習字をやってきて、たくさん賞もいただいて、「世界で一番うまいんちゃうか」と思っていました。だから、おっきい石で頭を殴られたぐらいの衝撃で、家に帰ってめっちゃ泣いて。「おかしい!私が上手じゃないはずがない。あの先生、変な先生かもしれへん」って(笑)。
金丸:あ、自信を失ったわけではない(笑)。
青柳:そこから「絶対に上手って言わせてみせる」って燃えました。だから結果的によかったんです。先生のひと言で、今までやってきたお習字と書道の違いをちゃんと考えるきっかけにもなりましたし。
金丸:書道と習字の違いというのは何でしょう?
青柳:お習字や書写って「字を習う」「書き写す」と書くように、お手本を忠実に再現するのが目標なんです。一方で、書道はうまく書けるのは大前提で、そこに加えて自分らしさとか芸術性が求められます。
金丸:表現力とは人を感動させるものだと思いますが、そのときの青柳さんの書にはプラスアルファが欠けていたということですか?
青柳:そうです。かたちはきれいでも、見る人に訴えかけるものがなかったんだと思います。私が小・中・高とやってきたお習字からまったく離れられていないのを、大学の先生はひと目で見抜いたんです。18歳にして、私は初めて書道に出合いました。
金丸:厳しいですが、いい先生ですね。
青柳:その先生にはそれからいっぱい教えていただいたんですけど、納得できるとことできないとこがあって(笑)。
金丸:そうなんですか。面白い(笑)。
青柳:線がどうこう言われたら「どうせ、先生はまっすぐ線引かれへんのやろ」とかいろいろ理由をつけて、自分を慰めていましたね(笑)。
金丸:なかなかヘコまない。ポジティブですね(笑)。
青柳:元気だけが取り柄でしたから(笑)。
書道部部長就任を機に書道パフォーマンスと出合う
青柳:そういうキャラだったからなのか、2年生になったときに「書道クラブを立て直してほしい」と声をかけられました。部員が私を入れて3人しかいなくて、廃部になりそうだったんです。
金丸:書道コースがある大学なのに。意外です。
青柳:それで言われるまま、部長に就任して。
金丸:ここまでリーダーっぽいお話は出てきませんでしたが。
青柳:無縁でした。書道教室でちっちゃい子に教える機会はあったけど、部活もやってなかったし、学級委員長もしていないし。
金丸:生まれて初めて経験するリーダーは、どうでしたか?
青柳:リーダーの言うことを周りは聞いてくれるものだ、と思っていたんですが……。
金丸:そんなに都合のいい話はないでしょう(笑)。
青柳:なかったですね(笑)。しかも部員のふたりはどちらも先輩で、「なんでそんなん言われなあかんねん」みたいな。リーダーシップの本を読んで勉強もしてみたけど、どうしたらいいか分からなくて、とにかく「書道クラブをよくしていきたいから一緒に頑張ってほしい」と言い続けました。
金丸:熱意を伝え続けることは大事です。
青柳:ただ「入ってください」と言うだけじゃ入部してくれないし、外に向けて書道の魅力のアピールもしないといけない。そこで、新しいことに挑戦してみようとやったのが、書道パフォーマンスだったんです。
金丸:そうして書道パフォーマンスと出合った。人生、何があるか分かりませんね。
青柳:当時はかなり珍しかったこともあり、結構注目されて、部員が一気に増えました。1年生から4年生まで合わせて25人に。
金丸:すごい!敏腕部長じゃないですか。
青柳:書道パフォーマンスを始めたばかりの頃、無謀にも大会に参加したんです。何も分からなかったけど、1ヶ月でできるかぎりの準備をして。そしたら、パフォーマンスを見た方から声をかけられ、ショッピングモールやいろいろな場所でやらせてもらう機会が増えました。「女子大生の書道パフォーマンスがすごい」みたいにメディアに取り上げられることもあって。
金丸:たまたま部長になって、たまたま書道パフォーマンスと出合って。それが今につながっているんですね。
青柳:そうですね。社会人経験もないまま、ずっと書道をやり続けて今に至る、という感じです。
金丸:ちなみに部員25人のうち、書道を今も続けている方は何人いらっしゃいますか?
青柳:お寺で働いてる子がひとり、教員になった子がひとり。あとは仕事しながら書道を続けてる子がふたり。だから4人ですね。
金丸:書道パフォーマンスをしているのは、青柳さんひとりだけ?
青柳:はい。私の在学中だけじゃなくて、歴代で見てもおそらく私だけです。
金丸:なるほど。芸術の世界でプロとしてやっていこうと思えば、厳しさもありますからね。
青柳:はい。続ける人が少ないのは、ちょっと寂しいですが。
金丸:ところで、スポーツ選手だと筋肉トレーニングや基礎練習がありますが、書道も何か日々の練習があるんですか?
青柳:ありますよ。私は今も先生についてお稽古していただいているんですが、臨書(りんしょ)といって、昔の法帖(先人の筆跡や碑文などを臨写したもの)を模写しています。
金丸:やはり古典を学び、きちんと基礎を身につけることが大事なんですね。
青柳:あと、書道パフォーマンスは足腰がめっちゃ大事なので、毎日スクワットをやっています。長いと7分半ぐらいのステージになりますが、その間ずっと中腰なんですよ。終わったあとは足が笑います。
金丸:普通の作品づくりとは、まったく違うんですね。
青柳:ひとりでこもって自分の作品と向き合うのは「静」の世界。一方で、書道パフォーマンスは仕上がっていく過程を見せる「動」の世界。音楽でたとえるなら、何度も録音しなおして良いものを作るレコーディングが作品づくり。一方、書道パフォーマンスは会場を巻き込んで、一発勝負のライブですね。
金丸:「静と動」の両方を経験するからこそ、生まれるものがきっとあるんでしょうね。
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