2023.09.04
オトナの5分読書 Vol.54. 収入激減、仕事のない苦しい1年
彼に別れを告げられて、悲しみと絶望の中で帰国した当時は、仕事がほとんどなく、月収は数万円だった。
ハーバード大学留学関連の書籍を出していたため、その印税やちょっとした原稿へのギャランティーが振り込まれる程度。
貯金がないわけでなかったにせよ、収入より支出が大きく毎月赤字。
一方で転職活動しようという気も起きず、弁護士としてまた働く気にもなれず、これからどんなキャリアを描いていけばいいのか分からなくなっていた。
食費の余裕もなく、1食入りのカップラーメンが高くて買えず、1袋5玉入のインスタントラーメンを買って、ラーメン1玉を半分に割り、水菜を浮かべて食べていた。
貯金を切り崩す毎日。でも、収入が少ない現状は家族を含め、誰にも言えない。
それまで、私には家族の出世頭のような意識があった。それがいきなり「家賃と保険料を払ったら赤字」という経済状態になり、そこから抜け出す見込みもたたず…。
あの頃の私は、長期的な視野で物事を考えられなくなってしまった。
金銭的につらかった時期が1年ほど続いた頃、財務省の森友学園問題が起き、所属事務所を通じてテレビ出演の依頼が舞い込んだ。
次第に生出演の機会が増え、それがうまくいき、毎朝放送される情報番組レギュラーとして呼ばれるようになる。
以前は、何か1つのことを突き詰めていくことのほうが自分に合っているのでは、と思って挑戦していたが、その方法は私に合っていなかったのだろう。
私は2つぐらいの柱を立てて、その間を行ったり来たりしながらキャリアを歩んでいくのがちょうどいいと、今は思っている。
5. つらい現実と向き合った、卵子凍結
婚約者に別れを告げられて、2016年に帰国。金銭的、精神的に苦しい時代を経て、ようやく落ち着いた2020年3月ころ、私は「子どもが欲しい」という思いをどうすれば実現できるのか悩んでいた。
そんなタイミングで、「海外には従業員の卵子凍結を助成する企業があるんだよ。この流れはおそらく、いつか日本にも来ると思うんだ。それを見越して、日本で卵子凍結を広める会社を立ち上げたいと思っていてね。試しに卵子凍結のクリニックに行って、様子を聞かせてくれないか」と知人男性から相談される。
そこで「物は試しだ」と、私は早速都内にあるクリニックの門をたたいた。
初めてクリニックに行った日の帰り道、電車で若いカップルを見て泣けてきた。
「この人たちはこんなに若いのにお互いに相手を見つけている。おそらく『子を持つ』というゴールに対しては私よりも近くにいる」と羨ましくなり、子どもを産むことに関して、自分の人生に少し絶望してしまったのだ。
かつての私は「テストの点数」や「異性からもてるかどうか」で自分の価値を測り、その後は「職場における評価」で測っていた。
そして今度は不妊治療の世界に足を踏み入れ、「子を持つというゴールへの近さ」で測り始めてしまったのだ。
6. この本を出したワケ
本書では、私の失敗談を「これでもか!」というほど紹介しているが、単なる失敗談にとどまらず、もう少し広がりのある本として世に出したいと思っている。
会社や組織のなかで、部下や後輩を育成する目的で、上の世代は自分の「弱さ」を下の世代に向けてもっと開示しなくてはならないと思う。
キャリアの駆け出しの頃の、恥ずかしく、悔しい経験を、できるだけ詳しく、当時の感情も含めて話す。ベテランになってからの失敗談も同様に。
その失敗談には、話し手のコンプレックスや人間性に加えて、ためになるノウハウも隠れていると思う。
今ベテラン層にいる女性たちの多くは、これまで男性中心の職場の少数派として、まわりの人に負けないためにも、むしろ弱みを見せないように背伸びしてきたのではないだろうか。
もしこの本を読んでいるあなたが、その1人だったら、この本をきっかけに、ご自身のつらかった経験を見つめ直してほしい。
私がキャリアの駆け出しの頃に抱いた絶望感は、「頑張っても頑張っても誰一人、私のことを見てくれないのではないか」という不安から来るものだった。
誰か一人でもいいから私のことをケアしてくれる人がいたら、心が温かくなり、苦しい場面でも踏ん張れていたと思う。
私の拙い失敗が、下の世代にとってのセーフティーネットになればいいな、という願いを込めて。
7. 本書のココがすごい!
今回紹介した、『挫折からのキャリア論』のすごいところは下記に集約される。
①成功本は、世の中にたくさんあるが、挫折や心の内を赤裸々に告白しているところ。
②一見、完璧なキャリアを持つ山口さんも、自分が輝ける道を模索していると知り、勇気づけられる。
③自分の失敗をさらけ出すことは、誰かの役に立つことが分かる。
著者 山口真由
1983年、札幌市出身。2006年3月、東京大学法学部を卒業。同年4月に財務省に入省。08年に退官し、15年まで弁護士として法律事務所に勤務。
15年9月~16年8月、米ハーバード大学ロースクールに留学し、卒業。17年4月、東京大学大学院法学政治学研究科 博士課程に入学。17年6月、米ニューヨーク州弁護士登録。20年3月、東大大学院を修了。
20年4月から信州大学特任准教授となり、翌年、特任教授に就任。
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