フォルダが開かれ、たくさんの写真が表示される。
いろんな景色や、なかには男と撮っているような写真もあったが、ひとまず注視せずにスクロールしてざっと眺めた。
だが、写真を見ているうちに雅紀はあることに気づき、手を止める。
― ええ…。どういうことだよ…。
写真に写った景色には、見覚えのあるものが多かった。
自分たちがこれまでデートで出かけた先と、同じような景色の写真ばかりが並んでいたのだった。
動物園や水族館、遊園地。
フォルダ内の写真は、これまでのデートの行き先ばかり。
それどころか、これから行こうと話していた美術館などで撮ったものもある。
雅紀は、おそらくすべて、玲奈が元カレと出かけた場所であろうと察した。
― なんで、そんなところに俺と…。
思い出の場所に行けば、自然と元カレの存在を思い出してしまうではないかと、玲奈の行動に不信感を抱く。
そのとき、雅紀の頭にマイナスの思考がよぎった。
― むしろ、思い出そうとしてるってことか…?
元カレを忘れさせようとしている自分に対し、玲奈は思い出の場所を辿り、記憶を鮮明に蘇らせているのではないかと思った。
それほどまでに元カレを愛おしく思い、未だにその存在を色濃く残しているのかと、玲奈の胸中を察し、雅紀は打ちひしがれた。
「ごめんごめん!お母さんの話が長くって…」
玲奈が母親との電話を終え、部屋に戻ってきた。
「え…。雅紀、どうしたの?」
肩を落とし、悲壮感を漂わせている雅紀に声をかける。
「玲奈。なんだよ、これ…」
雅紀が写真の映ったパソコンの画面を向けると、すぐに状況を察したのか玲奈が動揺を見せる。
「そ、それは…」
「元カレとの写真だろう?俺と出かけた場所で撮ったものばっかりじゃないか。そうやって同じ場所を巡って、こいつのことを思い出してたんだろう…」
雅紀が声を震わせて訴える。
「ち、違うの…」
「何が違うんだよ」
「確かに、同じ場所に行ってたけど、それは彼のことを忘れるためなの」
「忘れる…ため…?」
玲奈の言葉の意味が理解できず、雅紀は顔をしかめる。
「信じてもらえるかどうかわからないけど…。彼と行った場所に雅紀と出かけることで、彼との思い出を消そうとしたの」
「思い出を上書きしようとした…ってこと?」
玲奈は頷くが、雅紀としては即座に受け入れることはできなかった。
だが、雅紀の頭に、かつて耳にしたある言葉が思い浮かぶ。
『女性は思い出を上書きして保存する』
そんな話を聞いたことがあった。
男が元カノのことをフォルダにして記憶に残し、いつでも取り出せるように保存しておくのに対して、女性は元カレとの思い出を上書きしてリセットするのだと…。
もし、その言葉が事実だとするなら、玲奈は元カレを忘れるための作業をしていることになる。
現恋人である雅紀としては、その努力を阻むわけにはいかない。
「本当に、元カレのことを忘れようとしてるの…?」
玲奈が深く頷いた。
「…わかった。信じるよ」
たとえ玲奈の真意が別にあったとしても、別れるという選択はできない。玲奈を手放すことなどできない雅紀は、信じるしかなかった。
「これから、そいつと出かけた場所を全部巡ろう。そして、思い出を全部上書きしよう」
雅紀は、玲奈の目をじっと見つめる。
「俺が、絶対にそいつのことを忘れさせてやる」
何度も告げたこの言葉に、いっそう強い思いを込め、雅紀は宣言した。
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この記事へのコメント
玲奈は元彼を忘れないようにしてる気がしてならない。来週も楽しみ!
夏だしちょっと怖い系の連載読みたかったから嬉しい。
『港区ミステリー』ではなく『東京ミステリー』とのタイトルもいいね。