許さない女、許す男 Vol.13

「この子とは、もう無理だ…」エリート医師が別れを決断した、彼女の“面倒な一言”とは?

「他に好きな人ができたから」

「浮気したから」「されたから」

男女の別れはそんなに単純じゃない。

付き合う前、付き合った後、結婚前、結婚後…。

さまざまなタイミングで“別れ”のトラップは潜んでいる。

些細な出来事であっても、許せるか、許せないかはその人次第。

パートナーのその言動、あなたなら許す?許さない?

▶前回:「私って、賞味期限切れなの?」エリート外科医の失言に、32歳女は動揺し…

いつも東京カレンダーをご愛顧いただき、ありがとうございます。こちらの連載小説は、有料記事となります。

※1話目と2話目のみ無料公開しております。


Vol.13 外科医・岩本直哉(37歳)の場合


「賞味期限が切れた男だけど、いい?」

岩本直哉が付き合う前に発した一言が、恋人の蛭田南帆にはずっと引っ掛かっていたらしい。

南帆から「人間に賞味期限なんてないよ」と突然反論され、直哉は唖然とした。

深い意味などなかった。37歳の自分が32歳の南帆から告白され、恥ずかしくて発しただけの自虐の言葉。

しばらく経つのに、いまさら不満を吐露されるとは思いもしなかった。

― 女性というのは、どこに地雷が埋まっているか分からないな…。

直哉は、ただただ面倒くさく思った。

― でも仕方ない。それが女性と付き合っていくということだ。

男と女は互いに何かを諦めながら、それでも一緒に生きていくしかないのだろうか。

休診日で人が少ない総合病院。その休憩スペースには直哉しかおらず、缶コーヒーを手に深い溜息をつく。

「どうしたの?何の溜息?」

懐かしい声がして振り返る。気づけば、看護師の桜木紗香が立っていた。

紗香は、5年前に直哉と別れた元カノだ。その後、泌尿器科の桜木医師と結婚している。

「…気軽に話しかけるなよ。誰かに見られたら、どうするんだ?」

直哉と紗香が付き合い、そして別れたことは、院内でも有名だった。

「別に見られてもいいでしょ。悪いことをしてるわけじゃないし」

「何の用だよ」

「溜息の理由は、蛭田さんのことでしょ?」

紗香と別れてから5年後、直哉がふたたび看護師の蛭田と付き合ったことも、やはり院内では有名な話だった。

「蛭田さんが悩んでるから、私、恋愛相談に乗ってあげたんだよね」

「は?」

「うまくいってないんでしょ?」

― 南帆は、俺が昔付き合っていた女に相談したのか?勘弁してくれ…。

思わず心でぼやいた。

「ごめんな」と、直哉は謝る。

「申し訳ないと思ってるなら、今度は私の相談に乗って欲しいんだよね」

「…相談?」

「私、夫と離婚したいと思ってるんだ」


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