毎年名画がラベルを飾るシャトーの“末っ子”
嵩倉:それに?
柳:最近は一部のワインが芸術品並みの価値をもち、オークションでとんでもない値がついたりするので、絵画をワインに置き換えると面白い小説が1本書けそうだなとも思ったりして。
嵩倉:ちなみに史上最高額のワインといったら?
柳:2018年に落札された1945年のロマネ・コンティで、1本55万8,000ドル。日本円にしておよそ6,200万円だね。
新谷:ひゃ〜、もはや飲み物のお値段ではありません。
柳:それから、この映画に見られるナチス・ドイツによるユダヤ人迫害というコンテクストはワインの世界にもあり、ボルドーの名門シャトーのひとつ、シャトー・ムートンを所有するロスチャイルド家のフィリップ男爵は、妻が収容所に送られて死亡。自身も英国に亡命せざるをえなかった。
ちなみにロマネ・コンティが破るまで、史上最高値を記録してたのは、シャトー・ムートン・ロスチャイルド1945のダブルマグナム(3リットル瓶)で31万ドルなり。
嵩倉:ムートンといえば、著名アーティストの作品がラベルを飾ることでも有名ですよね。
柳:そのとおり。48年はマリー・ローランサン、58年はサルヴァドール・ダリ、69年はミロ、70年はシャガール。そして1級に昇格した73年はピカソだ。
すごいのは毎年、アーティストがムートンのためにオリジナル作品を手掛けていること。アーティストへの報酬はお金ではなくワインらしい。
嵩倉:将来、何千万にもなるなら、キャッシュよりもそのほうが。
新谷:では、今回はそのムートンを飲みながら?
柳:いやいや、直近のヴィンテージでも10万円をくだらないので、ムートンファミリーの末っ子「ムートン・カデ」を飲みながら映画を鑑賞しましょう。
「MOUTON CADET ROUGE CLASSIQUE BARON PHILIPPE DE ROTHSCHILD(ムートン・カデ・ルージュ・クラシック バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド)」
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幅広い分野の雑誌で執筆を手掛け、切れ味あるコメントに定評があるワインジャーナリスト。今月の映画をきっかけに、周りの人の「お気に入り絵画」を訊ねるのが楽しみに。
映画を中心に、書いたり取材したり喋ったり。平日の昼間、美術館で過ごすのが好き。今年の初夏は、マティス展、テート美術館展、ソール・ライター展が楽しみ。
本連載の担当になって5年目に。ワインの知識は少しずつでも着実に積みあがっていると信じ、柳氏にしがみつく日々。旅に出たら、その街の美術館を巡るのがお決まり。
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