― 将也が、知らない女と一緒にいる…。
窓際の席で、見知らぬ女と向かい合わせに座っている男。それはどう見ても将也だった。
向かい側の席に座る女の顔は見えないが、黒髪を1つに結んでいてなんだか地味そうに見える。
― これは、浮気?それとも単に同僚と朝食をとっているだけ?
カフェの中に入る勇気もなければ、爽やかな早朝から修羅場を持ちかける胆力もなかった私は、そのままドアを開けずに自宅へと引き返したのだった。
◆
その夜。帰宅した将也に、私はこう問い詰めた。
「最近、家を出るのが早いのは仕事だって言ってたけど…。まさか女の人と会ってるとは思わなかったわ。あんな朝早い時間に、わざわざ私が作った朝食を抜いてまであの人と会う理由は何!?」
冷静に話し合うつもりだったのに…。夫の顔を見ると責めずにはいられなくなった。
「いや、ごめん。違うんだ!嘘をついたのは悪かったけど、浮気じゃない」
「じゃあ何?」
「真奈に、相談してたんだ。その…。由里子との夜のことを」
どうやらカフェにいた女は、将也の学生時代の同級生らしい。今は心理カウンセラーをしているそうで、数週間前に偶然再会した際、ついレスであることを吐露してしまったそうだ。
「そろそろ子ども、ほしいなと思ってたから。だけど、なんていうか俺自身がそんな気分になれなくて。…ごめん、由里子のことは大事に思ってるんだけど」
まるで頭を殴られたかのような衝撃だった。
家事だってそつなくこなすし、何年一緒に住んだってスッピンさえ晒さないように気をつけてきた。少々気の強いところはあるけれど、ほかの魅力を考えればそんなもの取るに足らない欠点だと思う。
…それなのに。何かにつけて私を拒む将也が、いつも許せなかった。
そのうえ、夫婦の事情をほかの女に話すなんて。
― しかもあんな、地味そうな女に!!
「そう。…今日はこれ以上、話したくない。もう寝る!」
叫び出しそうになる気持ちをこらえて、寝室にこもる。そして夫が寝静まった頃を見計らって、こっそり将也の携帯を盗み見た。
パスワードも初期設定の頃から変えていないようだ。あっさり解除ができたところを見ると、彼女と浮気はしていないのかもしれない。
ただLINEのトーク履歴をさかのぼると、やはり毎朝あのカフェで会っていることがわかった。
『遅くにごめん、明日は少し早めに会えない?8時集合で』
そこで将也を装って、待ち合わせ時間を早めるLINEを送りつける。するとこんな時間まで起きているのか、彼女はすぐに返信してきた。
『いいよ!寝坊しないでね(笑)おやすみ!』
明日になれば、勝手にLINEを送ったことはバレるだろうが、もうどうでもいい。私は直接、彼女と対決することに決めたのだった。
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