自分が心底惚れているものだけを選びたい。
ファッション、グルメ、インテリア、クルマ――。
35歳になった和也の人生のモットーだった。
恋愛においてもそれは同じだ。
「なんとなく付き合うぐらいなら彼女はいらない」
そんな和也が、食事会でついに気になる女性を見つけた。
美人CAの瀬那だ。彼女の心を捉えるために、和也が計画したデートプランとは?
和也:一目惚れなんて久しぶり
「お、瀬那さんから返事が来てる」
バスルームを出てスマホを見た瞬間、僕は、柄にもなく心臓が跳ねるのを感じた。
髪から滴る水をタオルで押さえながら、LINE通知をタップする。
― あれ…?
一瞬で期待を砕かれ、固まった。
ペコリと頭を下げる猫のイラスト。瀬那さんからの返事は、スタンプのみだ。
『和也:昨日はありがとうございました。良かったら、ぜひまた飲みにいきましょう』
数時間前に送った自分のメッセージが痛々しくて、僕は思わずスマホを伏せる。
瀬那さんと出会ったのは、昨日のこと。
元同僚・勘九郎に誘われた男女3対3の食事会がきっかけだった。
凛とした姿に上品な言葉づかい。目鼻立ちのはっきりした美しい顔。僕は彼女が気になった。
彼女は29歳で、CAをしているという。
― でもスタンプだけなんて、完全に脈ナシだよな。
髪を乾かし終えた僕は、諦めモードで仕事部屋に入り、PCを立ち上げる。
3年前、32歳のとき、僕は勤めていた外資系コンサルから独立し、フリーになった。
仕事は絶好調だ。
激務な時期もあるが、精神的にはのびのびやらせてもらっている。
「和也、かっこいいし稼いでるし、モテるのにな。なんで彼女作らないの?」
勘九郎にはよくそう言われる。
「グッとくる子がいないからだよ。なんとなく付き合うぐらいなら彼女はいらない」
毎度勘九郎に返すこの言葉こそ、僕の本音だ。
彼からはいつも「贅沢だな」と苦笑いされるが…。
― 瀬那さんは、久しぶりにいいなって思う子だったのに、残念だな。