「横浜にはよく来るんですか?」
瀬那さんは、少しうつむきながら僕に尋ねた。
「横浜は、中高時代を過ごした思い出の街なんだ。たまに仕事に行き詰まると、深夜の高速に乗ってここに来る。
この景色を見ると懐かしくて、モヤモヤした気持ちが浄化されるようにスーッとするんだよ。仕事を頑張りたいときの、ルーティンのひとつなんだ」
彼女の目が、夜景を映してキラキラ輝いている。
「和也さんにとって、クルマは大事な相棒なんですね。よくクルマ選びと彼女選びは似てるっていいますけど、和也さんがこのZR-Vを選んだポイントはなんですか?」
「いろいろな理由があるけれど、まずは、タフな雰囲気なのに優雅さも感じさせる佇まいに一目惚れしたんだ。
しかもカスタマイズすることで、自分らしさを表現できる。
たとえばフロントロアースカートというパーツを装着したり、瀬那さんが気づいたブラックエンブレムにすると、より精悍なキャラクターになる。そういう遊び方ができるのは嬉しいよね。知れば知るほど愛着が湧いてくる感じっていうのかな」
瀬那さんは、僕の話に興味深そうに耳を傾けている。
「あとね、Hondaってさ、F1とかMotoGPなんかの最高峰のレースで、世界に挑み続けて、結果を出してきた会社なんだ。僕もHondaみたいに、グローバルにチャレンジし続ける自分でいたい。そんな決意も込めて、HondaのSUVを選んだんだよ」
瀬那さんは、嬉しそうに少し距離を縮めてきた。
「私、男女問わずポリシーを持つ人に惹かれるんです。和也さんみたいに芯が強い人、好きです」
思わぬ言葉に、僕は息を整える。
「…僕も、瀬那さんのことが好きだよ。しかも、これからもっともっと好きになる」
瀬那さんは、数秒間僕を見つめ返した。それから曖昧にうなずき、目をそらした。
― え、はぐらかされてしまった?
感情が読めずに、混乱する。僕は仕方なく「そろそろ東京に戻ろうか」と言った。
駐車場に着き、2人でナビを操作して目的地を入れる。
ZR-Vに付けた純正ナビはサイズが大きいので、2人で操作するのに最適だ。
ナビに触れる綺麗にネイルが塗られた彼女の手を、握りたい衝動に駆られる。
― 次のデートになんとか誘いたいけど…。
言葉を探していると、彼女が口を開いた。
「さっきは、気持ちを伝えてくれて嬉しかったです」
「え?」
「このクルマで、和也さんと一緒に、いろんな場所に行ってみたいです」
嬉しすぎる言葉に、返事が出ない。
「ああ…久々に、こんなに照れちゃいました」
瀬那さんは柔らかく笑いながら、シートベルトを締めた。