ワタシ 29.0~updateする女~ Vol.1

ワタシ 29.0~updateする女~:“垢抜ける”ことを決意した夜。初対面の男から浴びせられた、プライド崩壊の言葉とは

それは、菜月たちが留学していた10年前こと。

留学先で出会った現地人の恋人・トニーは、菜月にとって初めての男性。心の底から、大好きで大好きで仕方なかった。

その日菜月は、半年近く一緒に過ごしているトニーという英国人男性と手をつないで歩いていた。映画デートの帰り道だった。

「ねえトニー。この後は、どうする?」

菜月が甘えた声で言う。すると彼は、突然立ち止まって肩をすくめた。

「ああ、菜月。君に言わなきゃならないことがある」

「なに?」

「…残念なんだけれど、もうこれっきりにしよう。…彼女に、ものすごく怒られちゃったんだ」

菜月は耳を疑う。

「…ん?彼女?」

そう聞き返すとトニーは、菜月が英語を聞き取れなかったと思ったようで、やたらとゆっくりと同じ言葉を繰り返した。

「…そんなのひどい」

「ごめん、悪かったよ」

― 半年間すべてを捧げたのに、私はトニーの浮気相手に過ぎなかった。何も気づかず、まっすぐに信じていたのに…。

寮に戻る気になれず、ひとり敗北感にまみれながらビッグ・ベンを見上げる。霧の中でほんのりと輝く文字盤を見ながら、菜月は思った。


― 彼女さん…どんな人なんだろう…。

どうしても見てみたくなってしまった菜月はその晩、半泣きのままトニーの家の近くまで歩いた。玄関ドアが見える場所で、腰を下ろす。

30分ほど経っても誰も来ない。もう帰ろうか…。そう思ったとき、トニーが女性と腕を組んで歩いてきたのだ。

思わず凝視したその女性は、とても素朴な人だった。

そばかすも、乱れた髪もそのままで、どこにでも売っていそうなシンプルなフリースを着ている。

― なんで?どうしてあの人の方がいいの…?

正直、自分の方が数段綺麗だと思った。

「私、こんなに着飾ってきたのに…」

トニーに出会ってから必死で勉強したメイクも、服も、すべて無意味だったわけだ。

可愛くなるために費やした労力も、時間も、ムダ。

すべてがむなしく感じた。

― 恋愛って怖いや。…裏切らないのは、夢だけだわ。それなら、私は夢を追おう。恋愛なんてもうしない。通訳者になって、絶対に活躍しよう。

そう決心したのだった。

あれから10年。

菜月は今、本当に通訳として活躍している。恋愛なんてなくても、幸せに生きてこられた。誰からも傷つけられることなく、幸せに――。

…そのはずだったのに。



平和に生きてきた菜月に衝撃的なことが起きたのは、3人でイタリアンバルでの食事を楽しんだ、その帰り際のことだった。

トイレに行くと言って席を立った茜が、なかなか戻ってこない。

「ねえ菜月。茜、ちょっと遅くない?女子トイレ見にいける?」

恭一に言われ、菜月は席を立ちトイレに向かった。するとトイレのすぐ横で、茜が見知らぬ男に絡まれているのを発見したのだ。

この記事へのコメント

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No Name
立ち話の男、最低!
2022/02/18 05:1695返信4件
No Name
身だしなみは最低限整えたほうがいいけどね…
別にメガネかけていても美人な人は美人だし。どう変わって行くのか、期待ですね。
2022/02/18 05:1662返信4件
No Name
「ちゃんと『女の子』連れて来てね」って馬鹿過ぎて笑った。茜、こんなクズと食事会なんてやってんだ。
あと二股男もクズだよね。菜月にトラウマ持たせるって何してくれるんだよ。
2022/02/18 05:3237返信3件
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