2021.12.21
SPECIAL TALK Vol.87久住:どこの家も共通してそうでした。だから僕は「いくらで請け負って、いつまでに仕上げないといけない」という概念を、東京に出てきて改めて知ったんです。
金丸:なるほど。ビジネスとして考えれば、支払額と納期は先に決まっていたほうがいい。でも家づくりは、そんな枠には収まらないと考えていらっしゃるんですね。
久住:そうですね。淡路島ではそういう価値観でやってきましたし、家づくりの工程をずっと見てもらっていたからこそ、家を大事にしようという思いが生まれる。だから、家が長持ちするんでしょうね。
金丸:やっぱりプロセスを明らかにしないと価値は伝わらない。今の難しい状況で、どのように価値を伝えていくかは、大きな課題ですね。
久住:もともとは世界中で職人が尊敬され、純粋に“いいものをつくる”ことが大事にされていたんでしょうけど。
金丸:それがいつの間にか、日本では「納期は客が決めるもの」になってしまった。香港でオーダーメイドのスーツを頼んだとき、スーツ職人から「納期はおまえが決めるんじゃない。オレが決めるんだ」と言われて、ハッとしました。「オレにはオレのやり方がある。そのやり方は一切曲げない。だから仕上がるのはこの日だ。嫌だったらほかに行け」って。日本、特に東京だとそんな発想は許されない。
久住:都市には人と資本が集中しているからこそ、いいものを生み出すこともできるはずなんですが。
金丸:日本は残念なことに、「工業製品にすると価値がなくなるもの」まで工業製品にしてしまいましたからね。今では住宅もハウスメーカーの場合は、工場で作った部品を現地で組み立てるプレハブ工法が多いじゃないですか。しかも内装は、左官職人さんが塗ったように見せかけた仕上がりになっている。
久住:プレハブ工法そのものが悪いわけではありません。災害や大きな事故が起きたときは、プレハブ工法でなければ、家の供給が追いつきません。ただ、全部がそれに置き換わってしまうのは寂しいですね。日本は風化の捉え方も西洋とは異なります。モノを大事にするとか、古くなっていくものに価値を感じるとか、日本人の独特の考え方は建築にも根付いていますし。
金丸:「侘び・寂び」のように、風化していくものを美しく感じるというのは、日本独特の感性なのかもしれません。「住めればそれでいい」とか「早く完成するに越したことはない」とかばかり思っていたら、日本の文化はあっという間になくなってしまいます。
自然と人間のちょうど中間。茶室は日本文化の極み
金丸:久住さんから見ると、日本の壁は機能的なものなのか、アート的なものなのか、どう捉えていらっしゃいますか?
久住:両方あります。日本は地震や台風が多くて、建築的には悪い環境です。だからこそ日本家屋は、昔から機能面がかなり考えられて造られてきました。
金丸:家が軽いと台風で飛ばされてしまうし、重いと地震で倒れてしまう。
久住:それに四季がはっきりしているので、その変化に耐えられるように、中国や朝鮮半島だけでなく、ヨーロッパからも技術を取り込んで、さらに進化させてきたのが、日本の壁であり家造りなんです。一方で、空間の作り方は、すごくアート的だと思います。もともと神道の流れがあるので、人がモノを大事にする気持ちや、柔らかいものは柔らかいまま生かすといった美意識がすごく感じられて。
金丸:それこそ茶室なんて、アートの極みなのでは?
久住:おっしゃるとおりです。たとえば西洋で壁を作るときは、まっすぐ水平に、きっちり測って作ります。でも茶室の壁は、まっすぐ塗られているようで、実は微妙に曲面になっている。壁だけじゃなく、室内に自然とのつながりを取り込んでいるのが大きな特徴だといえます。
金丸:自然とのつながり、ですか。
久住:モノの生かし方が、自然と人間のちょうど中間のような感じなんです。だからスケールできっちり測るとか、「こういうふうに見せよう」という職人の作意が入り込むと、途端に本物ではなくなってしまう。「建物自体、すべてが本質」みたいなところがありますね。
金丸:そういう特殊な空間だからこそ、そこでお茶を飲むという行為が大事にされてきたんでしょうね。
久住:僕自身、自然のなかにいる時間をとても大切にしています。自然を感じ、それを模倣して壁を塗るというか、「自分たちも自然の一部なんだ」と感じながら、人間と自然の間みたいなものが作れたらいいな、といつも思っています。
金丸:そういう感性を持った職人がのびのびと仕事ができる環境だと、きっと素晴らしいものが生まれるんでしょうね。早くて安くて、質もそこそこでといった製品やサービスが支持される世の中ですが、長く使えるものを本気で作ろうと思ったら、それなりの時間とコストがかかるのは当然だ、という意識を持たないといけません。
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