2021.12.21
SPECIAL TALK Vol.87金丸:帰国されて、お父様とはどんなお話をされたのですか?
久住:左官に心が動きつつも、やっぱりケーキ職人も諦めきれず、卒業するギリギリまで悩みました。父に相談したところ、「ケーキは食べたらなくなるけど、左官は死んでも残るで」と。今思うと、ケーキだって全然違う意味で残るんですが、当時は18歳だったから、「そうか」と思っちゃって(笑)。
金丸:でも、サグラダ・ファミリアを見たら、「そうか」と思っちゃいますよね。
久住:サグラダ・ファミリアのような有名な建築物だけじゃなく、訪れた町で「この教会のこの階段は、職人が3世代にわたって作っているんだ」という話もよく聞きました。世代を超えて受け継がれていく仕事なんだなと思いましたね。
金丸:これまでの対談でも、「継がせたい父親と継ぎたくない息子」という構図は何度も出てきましたが、大抵は「お父さんの作戦勝ち」のパターンです。久住さんもそうだったんですね(笑)。
日本では、なぜ職人が軽視されるのか
金丸:ところで、ドイツやスイスにはマイスター制度があって、国をあげて職人を育てていこうと取り組んでいますが、今の日本は職人が軽視されているように思えてなりません。もともと日本の産業が競争力を持っていたのは、職人気質があったからです。それを忘れて、欧米のブランドづくりから学ぶことができず、価格競争に陥り、大事な競争力を失ってしまった。
久住:父は「日本に留まらず、海外へ目を向けろ」と度々言っていましたね。日本の価値観がずれていくことに違和感を覚え、そんな日本社会に不満があったからだと思います。
金丸:職人が低く見られがちなのは、仕事を頼んだ発注者に職人の仕事ぶりを見る機会がないからではないでしょうか。最後の仕上がりだけでなく、そのプロセスを見れば「こんなことまでやってくれていたんだ」と驚くはずです。
久住:それはあるかもしれません。そうなると、東京は職人にとってある意味、過酷な場所といえますね。たとえば夜中の表参道には、作業着を着ている人がたくさん歩いています。
金丸:それは、夜中に作業をしているということですか?
久住:はい。音がうるさいとか、作業している風景が汚いとか、そういう理由で職人たちの存在が隠されているんです。
金丸:そんな扱われ方だと、モチベーションを維持するのも大変ですよね。
久住:いくらいいものを作りたくても、存在を隠された上に夜中の作業となると、なかなか楽しくはできないですよ。世界中、いろいろな都市を見てきましたが、都市部は働くぶんにはよくても、モノが本当に物質でしかなくて、価値を持ちづらいというか、感動しづらいというか、エネルギーが必要な割にはやりにくい場所です。
金丸:日本でも、地方に行けば職人が働きやすい場所が今でも残っているのでしょうか?
久住:あると思いますよ。僕が若い頃、淡路島で仕事をしていたときは、施主と職人の距離がとても近くて、僕らの仕事を施主さんが手伝ってくれることがよくありました。
金丸:出来上がっていく過程を間近で見ると、職人がどれだけすごい仕事をしているかがわかるし、リスペクトも生まれますよね。
久住:それに、普段は質素な生活をしていても、家にはちゃんとお金と時間をかけるという風土がありました。「どれだけかかってもいいので、とにかくいいものを作ってほしい」という。それこそヨーロッパのように、孫の代にわたって建物を完成させるという気概を感じました。
金丸:それは裕福な家に限らず、どこの家もそうなのですか?
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