2021.10.18
柳 忠之のこの12本におまかせ Vol.11あなたには、自分好みなとっておきのワインはあるだろうか?
数多ある中から“運命の1本”に出合えたならば、きっとワイン好きの大人の日常がより豊かになるはず!
そこで、ワインのプロが胸を張っておすすめする究極の1本を聞いた。
今日ご紹介するのは、気候というハンデを背負いながらも世界と戦えるレベルにまで成長した、日本生まれのワインである!
ワイン造りにおいては、日本はハンデだらけ
――凄かったな〜、10秒53!
柳「おっ、クラリン(担当編集の嵩倉)、なにに興奮してるの?」
――五輪に引き続き、夢中で観てました。男子100メートル T47でブラジルのペトゥルシオ・フェレイラ・ドス・サントス選手が新記録の10秒53で金メダル。ハンディキャップがあるなか、このタイムは凄まじいです!
柳「僕なんて15秒切れるかどうかさえ怪しい。それはともかく、競技を見てつくづく思うのは、日本ワインに似てるなと。」
――えっ、どういう意味です?
柳「ハンディキャップを克服して、限界まで攻める姿が。」
――ほぉ〜。日本ワインのハンディキャップって?
柳「ずばり気候。梅雨があるうえ、夏に湿度が高く、収穫期には台風。もともと乾燥した土地で生まれたワイン用ブドウには、まったくもって不向きな環境だ。
しかし、そのハンディキャップに抗うがごとく、いろいろ手を尽くしてワインの質を向上させている。」
――なるほど。それでハンデをどのように克服したんです?
柳「一番わかりやすいのがブドウ品種かな。クラリンはマスカット・ベーリーAを知ってる?」
――それくらい知ってますよ。白ワインの甲州と並んで、日本ワインでは最もポピュラーな赤ワイン用品種ですよね?
柳「そのとおり。じゃあ、川上善兵衛さんは?」
――う〜ん、商店街にある酒屋の御隠居さんのお名前だったかな?
柳「違う!日本のワイン用ブドウの父と呼ばれる偉い人。マスカット・ベーリーAの生みの親だ。」
粘り強い日本人だから生み出せた品種があった
――生みの親?ブドウ品種って作ることができるんですか?
柳「交配や交雑と言って、異なる品種を掛け合わせて新しい品種を生み出せる。
新潟の上越に岩の原葡萄園を興した善兵衛さんは、湿度が高くて病気にかかりがちな日本の気候でも、健康に育つワイン用品種作りに取り組んだ。そうして百年近く前に生まれたのが、マスカット・ベーリーA。」
――知りませんでした〜。では善兵衛さんのおかげで、日本でもロマネ・コンティみたいなワインができるようになったんですね?
柳「そう単純な話じゃないんだな。マスカット・ベーリーAは比較的大粒なブドウで、濃いワインが造りづらく、昔はボージョレみたいな軽いワインが大半だった。
でも最近は栽培に手をかけ、醸造技術を駆使し、ボディに厚みのあるワインも増えてきている。」
――それで、柳さん的・金メダルのマスカット・ベーリーAとは?
柳「勝沼のMGVsワイナリーが造る「B153 勝沼町引前」。凝縮感があり、骨格もしっかり。これなら海外のワインとだって十分に戦えるよ。」
――打倒、ロマネ・コンティ!
ボトルも中身もスタイリッシュな一本は、日本生まれだった!
「MGVs B153 勝沼町引前 2017(マグヴィス B153 カツヌマチョウヒキマ 2017)」
日川沿いの自社畑「ひきま」のマスカット・ベーリーAを、徹底的に収量制限。良質なブドウのみをオーク樽とボトルで3年間熟成させた。
7,700円/MGVsワイナリー TEL:0553-44-6030
編集部員・嵩倉が飲んでみた!
重さはあるのに果実味たっぷりだから飲みやすい、まさに理想の赤ワイン。
また、自社デザインだというロゴにもセンスが光ります。コロナが明けたら、ワイナリー見学に行ってみたい!
◆
教えてくれたのは
ワインジャーナリスト 柳 忠之氏
世界中のワイン産地を東奔西走する、フリーのワインジャーナリスト。迷えるビギナーの質問に、親身になって答えるワインの達人。
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