絶食系女子 Vol.4

4年間彼氏がいない29歳美女。20万かけて婚活を始めてみたものの…

夢中になっている彼の正体


小走りで代々木上原の自宅に帰り、さっとシャワーを浴びる。パックをしながらiPadと小型スピーカーを準備。冷蔵庫から缶チューハイを取り出し、友人とスマホで通話を繋いだ。

『今日は僕たちの配信ライブに来てくれてありがとう!最後まで楽しんでいってね』

それほど広くはないステージに並ぶ、5人の若い男性たち。彼らは、界隈でそこそこ人気のある『メンズ地下アイドル』だ。

『さっくんこと、悠月咲斗(ユヅキサキト)です。この前、身長を計ってみたら、ちょっとだけ伸びてました!今日もよろしくね!』

ふわふわの茶髪に、小さな顔、大きな目と、八重歯が目立つ可愛い口元。色白小柄で、みんなの弟的存在だけど、実は誰よりもしっかり者で心優しい彼。

悠月咲斗(23)は、私の『推し』だ。

「ねえ、さっくん身長伸びたこと喜んでるの、めっちゃ可愛くない!?」

『さすがさっくん、あざといわ~』

友人とライブを実況しながら、大好きな彼を眺める。私にとって至福のひとときだ。

今はコロナのせいで、彼に直接会いに行けないけれど、その分配信ライブで、気軽に彼を見られる機会は増えた。

もっと言えば、週の半分がリモートワークになり、会社での残業や無駄な飲み会は激減。以前より自分が自由に使える時間も増えて、のびのびと『推し活』に専念できることに喜びを感じている。


『次でラストの曲です。それでは聴いてください……』

手が届きそうで、届かない。永遠につかむことのできない泡のよう。

キラキラまばゆい輝きを放つ、尊い存在。それがアイドル。

アイドルが与えてくれる高揚感や多幸感は、そのへんのつまらない男性との恋愛じゃ絶対に得られない。

手を伸ばせばすぐに届いてしまう世の男性たちに、アイドルオタクの私は何の魅力も感じない。

― さっくんは、歌もダンスも未経験でデビューしたのに、今じゃメンバーの中で群を抜いて上手。本当に努力家なんだなぁ……。

彼のパフォーマンスを、うっとりと眺める。

― これからも、さっくんの成長を見続けたい。ずっとそばで応援したい。

そう、思っていたのに。

『皆さん、今日は本当にありがとうございました。実はここで、大事なお知らせがあります。

僕、悠月咲斗は、子どもの頃からの夢だった保育士を目指すため、次のワンマンでユニットを卒業し、芸能界を引退します』

いつもはリーダーが話すエンディングトーク。珍しくさっくんがマイクを握ったから、何を話してくれるのかとワクワクしていたら……。

「ウソ、でしょ……!?」

幸せな時間が一変。

天国から地獄に突き落とされたような、初めての感覚だ。

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