あのコはやめて Vol.3

“親友の婚約者”と“自分の恋人”の確執。男が戦慄した女のエグい世界とは

その時、店のドアが開いた。

「お待たせ。お腹すいちゃったー」

「えっ!真紀さん?」

タイミング悪く、真紀が現れる。誠は思わず椅子から転げ落ちた。

「おっ真紀。今日は来ないと思っていたよ」

「誠くんも来るって言うから。私がガーデンパーティで途中退席した日以来だもん…って、大丈夫?」

バーでの逢瀬は秘密と言わんばかりに、誠とは久しぶりだと強調する真紀。誠は動揺してしまい、彼女の嘘に乗っかってしまった。

「ああ。そうだね…」

真紀は、圭一と誠が並んで座っていた席に入り込んだ。そして、いつも以上に圭一に身体を密着させメニューを見る。目の前の誠に見せつけるかのように。

誠は2人を複雑な気持ちで凝視した。

― 前は「羨ましいな」と思うくらいで、全く気にならなかったのに…。

「あのコはやめた方がいい」「大切な人だから」などと言われて以来、真紀のことが心から離れない。

それだけ存在が大きくなっているということなのか。彼女が目の前に現れると、気持ちがどうしても不安定になってしまう。

「そういや誠。さっき、何か話そうとしてなかったっけ?」

真紀の鋭い視線が自分の方に向いたような気がした。誠は体勢を整え、声を裏返らせながら、うやむやにごまかす。

「いやいや、別に。たいしたことないよ」

「もしや、咲良さん含め一緒に遊びに行こうって話?」

圭一の言葉に、真紀は穏やかに微笑んでいるように見える。咲良と自分の関係に横槍を入れているのが、まるで嘘であるような顔で。

「そうだね…。今は忙しいから難しいけど、また4人で集まりたいよね」

反応を伺うように言葉を絞り出す誠だったが、真紀は肯定も否定もしない。ただ黙っているだけだった。


「えー。それって、私、嫉妬しちゃうな」

「誤解だって。圭一がカン違いしているだけで」

「色々な愛の形があるからね。俺は問題ないよ」

その夜3人は、圭一をめぐって繰り広げられる架空の三角関係の妄想話で盛り上がった。

圭一に身体をゆだね、楽しそうにキャハハと口に手を添えて笑う真紀。やはり自他ともに認めるお姫様には違いなかった。

「ちょっとお手洗い」

そろそろ会計という頃合いで、圭一が席を立つ。真紀は彼がお手洗いのドアを閉めたことを確認すると、低いトーンで誠に尋ねるのだった。

「…誠くん。まだあのコと別れてないの?」

「あ、当たり前だろ」

誠はあえて軽い調子で答える。そして動揺を隠すように勢いよく言葉を続けた。

「てかさ、気に入らないから別れろなんて、なんで言うのさ。仲間ハズレなんて、子どものイジメじゃあるまいし」

「…」

しばし沈黙した真紀。よほどキツい言葉だったのだろうか。

「真紀さん?」

これまで見たこともない悲しげな表情だ。誠は言葉を反芻して、後悔した。

「…言い過ぎた?」

「ううん。そう思っても仕方ないよね。ごめんなさい」

真紀は素直に納得したかのように見えた。

「なら、いいんだよ」

しかし次の瞬間、突然誠に近づき、そっと耳元で囁くのだった。

「後悔しても、しらないから」

彼女の吐息が耳の奥に触れる。体温が急に上昇していくのが自分でもわかった。真紀は唇をかみ、潤んだ瞳で誠を見つめている。

誠は、どう反応すれば良いのかわからず固まっていると、圭一がお手洗いから帰ってくる。すると、それまでのことがなかったように、真紀は彼に甘えるのだった。

― 女は、怖い…。

彼女の豹変ぶりに、その言葉が頭のなかに浮かんでは消えていく。まるで、自分に言い聞かせるように。


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真紀から絶縁される誠。「後悔しても、しらない」この言葉の真意とは…?

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