

身体の内側から浄化されるような清々しい味わいのスープは1人前¥2,100。中央に浮かべたシェリービネガーであえた金糸瓜もアクセントのひとつ。オープンして27年、メニューは、当時とほとんど変わっていない
たった今、出来上がったばかりの翡翠色をしたスープは、まるで息をしているかのようにプクプクと小さな気泡を立て、静かな吐息を漏らしている。ご覧の目にも涼やかなひと皿が、ここ『コート・ドール』の夏を彩るスペシャリテ“大葉シソ・梅干しの冷製スープ”。孤高の料理人・斉須政雄シェフが生み出した珠玉の逸品だ。
青シソと梅干し。この、日本人の心の奥に潜む夏の原風景を彷彿とさせる食材を使いながらも、斉須政雄という料理人のフィルターを通すことで、その身に染み込んだフランスのエスプリが、それらをごく自然な形でフランス料理へと昇華させている。
シェフ曰く、「フランス料理は酢の使い方がポイント。あの鋭角的な酸味に顔がクシャクシャになるほど酸っぱい梅干しは、充分肩を並べるだけの力を持っていると思ったんです」。
材料は、ほかに透明なトマトジュースと濃度をつけるための少しのアボカド。それだけ。作り置きはせず、注文の度、仕上げる一瞬の味の煌きが身上だ。青シソの清涼感溢れる香りと爽やかな梅干しの酸味が拮抗する繊細な味わいは、泡が消えゆく迄の命と知ろう。