ヤドカリ女子 Vol.1

ヤドカリ女子:仕事も男も手玉に取る28歳女。彼女が決して自宅に帰らない理由とは

翌日、25時半。

上から2番目、左から3つ目。仕事終わりのだるい体でコインロッカーから荷物を取り出し、あんなはルブタンのヒールを鳴らす。

タクシー乗り場に向かいながら、バッグの中で振動したスマホを手に取ると『4件の新着メッセージ』をポップアップが教えてくれた。

うち3件は『ママ』と表示されている。そっと親指で長押しして、既読をつけないようにトークを開く。

“あっちゃん、元気してる?”

“忙しいと思ったから、簡単に食べられるものを送ったよ!受け取ったら感想教えてね♪実家に帰る暇もないくらいあっちゃんを忙しくさせるなんて、ひどい会社だよねー!”

“りんちゃんが全然就活しないから困ってる。声優になりたいから、オーディションを受けるって。このままだとニートまっしぐら。姉のあっちゃんがこんなに働いてるのに妹がニートじゃ、恥をかく。考えてたら昨日も眠れなくて…”

3通目のLINEは、文字数が多くて表示しきれなかった。ぐん、と心が重くなる。

母親に依存されていると気づいたのはいつだったか。

妹のりんがフリーターになってから、従来の情緒不安定さに磨きがかかり、返事をしなくても読み切れない量のメッセージが送られてくるようになった。

そんなとき、脳裏に蘇るのだ。

「あんたなんか、産まなきゃよかった」


薄らぐ幼少期の記憶の中で、母親の呪いのような言葉が今もあんなをとらえている。

何度も繰り返し言われたのだ。幼稚園の頃。小学生になってから。中学校に上がっても。

きっと母に指摘したら「そんなこと言ったっけ」と笑うだろう。年の離れた妹が思い通りに育たないことに気づいてから、手......


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