2020.12.21
SPECIAL TALK Vol.75朝ドラで全国デビューするも、悩みながらの俳優生活
辰巳:京都大学への入学が決まったあと、入学式よりも前に京大で活動していた「劇団卒塔婆小町(そとばこまち)」に入団しました。その後は芝居中心の生活でしたが、僕にとって芝居作りはものづくりと同じ感覚なんです。だから「役者がいい」「裏方は嫌だ」なんて感覚がなくて。
金丸:そういうものなんですか。
辰巳:劇団では役者として舞台にも立ったけど、演出をしたり、制作や宣伝という裏方の仕事も好きでやっていたんです。ですから『ロマンス』で役者として注目されたとき、正直に言うと、「これじゃあ役者を辞められない」とちょっと困惑しました。
金丸:でも辰巳さんを裏方にしておくのは、もったいないですよ。
辰巳:本当は『ロマンス』が終わったあと、すぐ劇団に戻って、またみんなと一緒にお芝居をしようと思っていたんですが……。
金丸:なかなか難しいでしょう。なんといっても、NHKでデビューして売れっ子の仲間入りを果たしたんだから。
辰巳:でも、そのあとは何年も苦労しました。演技についてはずっと自己流で、基礎もきちんと勉強したわけじゃない。いわゆる小劇場出身の役者は芸能界にたくさんいますが、それぞれ苦労されたはずです。
金丸:舞台と映像では、やっぱり要求される演技も変わるのですか?
辰巳:全然違いますね。言葉遣いひとつにしても。標準語の芝居もそれまでにしてきましたが、きちんとした東京弁がしゃべれるようになるまでには時間がかかりました。芝居漬けの毎日で、ろくに授業も出ていなかったので、卒業するのに7年もかかってしまい、その最後の年に『ロマンス』のオーディションに合格。それが24歳のときで、それから30歳を過ぎるまではずっと伸び悩んでいた感じです。
金丸:今の辰巳さんからは、そんな時期があったなんて想像できません。
辰巳:この道を続けるかどうか、悶々としていました。
金丸:ちなみに辰巳さんは、オーディションでの合格・不合格はどのような要素で決まるとお考えですか?
辰巳:新人であれば、ぱっと見の雰囲気と、役に合うかどうか、それから話題性でしょうね。『ロマンス』の前のテレビ小説が『おしん』。最高視聴率60%を超えた、あのおばけ番組です。行き着くところまでいったから、次は男性を初めて主役にしようと。
金丸:そこで見事に選ばれたのが、辰巳さんと榎木さんだった。
辰巳:榎木さんはもともと劇団四季で主役も務めた方です。演目の方向性で揉めて、四季を退団されました。一方の僕は関西の小劇場出身ですから、まさに対比の構図ですよね。それに京大出身というネームバリューもあって、拾っていただけたんだろうと思っています。
金丸:大学卒業前のオーディションで朝ドラに抜擢され、役者として生きていくことが決まるなんて、ドラマチックですね。
辰巳:そうですね。『ロマンス』がなければ、やっぱり裏方をメインにしていたかもしれません。実際にいろいろな劇場から「プロデューサーをやらないか」と声をかけていただいていましたし。それが一瞬でがらっと変わって。朝ドラで大勢の中から選んでいただいたのだから、役者として一人前にならなくちゃ申し訳ない、と思いながら今までなんとか続けてこられた、という感じです。
『日本のワインを愛する会』会長としての顔
金丸:ではワインの話を。単刀直入に、いつどんな出合いで、ワインにのめり込むことになったのですか?
辰巳:一応、最初に断っておくと、ワインだけが特別に好きというわけでもないんですよ。日本酒だって好きですから(笑)。
金丸:では"日本のワインも愛する会"というのが正確なのかもしれませんね(笑)。
辰巳:そもそものきっかけは、2003年に「『日本ワインを愛する会』を立ち上げるから、副会長になってくれ」と声をかけられたことです。いわば広告塔として、白羽の矢が立ったわけですね。
金丸:どうして辰巳さんに声がかかったのでしょう?
辰巳:世間ではワイン好きの芸能人、というイメージを持たれていたようで。やっぱり『くいしん坊!万才』の影響ですかね。
金丸:BSではワインの番組もお持ちですからね。
辰巳:ええ。でもあの番組は副会長になったあと、日本ワインの普及のために始めたんです。こちらも15年続いています。そして、2018年に会長に就任しました。
金丸:2018年というと、「日本ワイン」と「国産ワイン」が法律上で分けられた年ですね。国内のぶどうを使って、国内で醸造したものだけが「日本ワイン」と名乗ることができるようになった。
辰巳:はい。ですから「日本ワイン元年」とも言われています。それを区切りに、『日本ワインを愛する会』が掲げていた「日本ワインという名称を普及させる」、「日本ワインを実際に飲んでもらい、おいしさを知ってもらう」という目標は達成されたと考えました。結果、『日本ワインを愛する会』を一旦解散して、新しい目標に向けて『日本のワインを愛する会』を立ち上げたんです。
金丸:「の」の1文字が入っているかどうかで、「日本ワイン」だけを愛するのか、「国産ワイン」も愛するのか、意味がだいぶ変わりますね。
辰巳:そういうことです。日本各地に素晴らしいワイナリーができ、ワインファンも増えているなか、プラットフォームとしての役割を果たすのが会の目的です。
金丸:しかし、日本のワインは本当にレベルが高くなりました。
辰巳:そうなんです。それに手頃な価格なのにおいしい。僕も普段は、3,000円くらいまでのワインをおいしく飲んでいますよ。ただ、ちょっと高級なお店に行くと、料理とのバランスが取れないと考える人も多くて、結果的に日本のワインよりも値段の高い海外のワインを選んでしまうんですよね。
金丸:高級といえば、フランスワインを連想しますから。そういう意味では、やはりフランスはマーケティングがうまいですよね。
辰巳:フランスはわかりやすく発信するのが上手だし、「フランスワインこそ本物のワインだ」と言わんばかりの影響力を振るっています。たとえば、ワイン用語はフランス語が世界の共通語ですし、ソムリエコンクールもフランス語か英語でしか戦えません。もちろん、フランスワインだって悪くないんですよ。
金丸:うん。おいしいものはおいしい。それは間違いありません。
辰巳:でも個人的には、フランスワインよりイタリアワインのほうが断然面白いと思っています。ぶどうの品種が多く、個性的なワインがいっぱいあって、クラフトマンシップの強いこだわりを感じます。
金丸:日本人ってブランド志向だから、やっぱりフランスには弱いんですよ。フランスの中央集権的な発信の仕方はわかりやすいし、飲むほうも「このワインはこういう位置づけだ」と教えてもらったほうが、安心して飲めてしまうんですよね。
辰巳:フランスの巧妙なマーケティングに、うまく乗っけられていることに気づいてほしいものです。
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