2020.12.21
SPECIAL TALK Vol.75俳優という本業を忘れず、ワイン界にも貢献したい
辰巳:ワインって、ものすごく裾野が広いんです。一次産業とも繋がっているし、観光業との相性もとてもいい。ワインを通じて考えさせられることがたくさんあります。金丸さんは農協改革や漁協改革にも携わっていらっしゃいますよね。IT企業の経営者として、納得のいかないことがたくさんあるんじゃないですか?
金丸:そうですね。農業や漁業は流通の仕組みが複雑で、消費者のもとに届くまでにたくさんの人の手を介します。たとえば漁業の場合、漁師が釣った魚は地元の市場と豊洲市場を経て、店頭に並びます。その間、まず属している漁協で手数料を払い、産地市場で仲買人と卸に手数料を払い、さらに豊洲市場で仲卸と卸に手数料を払って競りにかけられます。しかも豊洲までの物流費も競りの手数料も、すべて漁師が負担する。農業も同じような状況です。
辰巳:それだと、農林水産業の人たちの手取りが少なくなるのも当然です。自分の子どもたちに後を継がせたくないのもわかりますね。たくさんの人が動いているから仕方ないのかもしれませんが、もっとITの力を使って効率化できないものでしょうか?
金丸:間に入る人が手数料を取ること自体は、悪いことではありません。重要なのは、その人や組織が入ることで、手数料を取るだけの付加価値があるかどうか。日本の場合、ITを活用してコストを抑えるのではなく、人海戦術でやってしまう。それでは付加価値は生まれません。
辰巳:そういう問題って、個人や個々の事業者ではなかなか解決できないと思うんです。だから僕は、将来の日本を見据えてグランドデザインを描いた上で、さまざまな課題を解決してくれる政治家に出てきてほしい。『日本のワインを愛する会』の会長として、首長さんや官僚の方々と話す機会が多いのですが、出来るだけ長いスパンで考えましょうと話しています。
金丸:日本は「デザイン」を軽視しがちだと思います。象徴的な話があって、金融危機で京都の老舗呉服店が倒産したとき、日本企業はその店の着物の在庫を安く買い叩きました。一方で、某ラグジュアリーファッションブランドは着物のデザイン画を買ったんですよ。
辰巳:その違いは大きいですね。いくら着物を安く仕入れられても、1回売ってしまえばそれきりですから。
金丸:そのとおり。でもそのブランドは、和の絵柄を活用した商品を作り続けることができる。着物そのものではなく、京都の歴史と伝統が凝縮されたデザイン画を選んだわけです。
辰巳:エネルギー問題だって、発想の転換が必要ですよね。再生エネルギーの可能性がいろいろ議論されていますが、なかなか進まない。でも日本ほどあちこちで温泉が湧いている国はないのだから、本気で地熱発電に取り組んだっていいじゃないですか。温泉が出なくなるなんて反対意見もあるそうですが、エネルギー量のケタが違うと聞いています。
金丸:毎日温かいお湯が出てくるって、すごいエネルギーですからね。あるいは、国土の7割を占める山林を利用したバイオマス発電だって、可能性は十分あると思いますよ。若い人たちがどんどん新しいことに挑戦できるように、われわれの世代がエールを送り続けなければいけません。
辰巳:本当にそう思います。
金丸:最後に、辰巳さんはこれからどのような道を歩まれるのですか?
辰巳:緊急事態宣言が出る直前の今年の3月、キュリー夫人を題材にした舞台をやりました。その後、社会情勢的に公演をやりづらい状況ではありますが、このところ演技にじっくり取り組む時間をあまり持てていなかったなと感じているんです。ですから、やっぱりもっと舞台に立ちたいし、俳優の仕事をしたい、と改めて思っています。実は、来月1月の舞台も急に決まったんですよ。ぜひ観てくださいね。基本に立ち返ると、僕は役者で小劇場出身。本業をきちっとやりつつ、ワインをアイコンにした地方の活性化や、食文化の啓発などに取り組んでいきたいですね。とはいえ人間、そんなにいくつもやれませんけど(笑)。
金丸:いや、十分なくらい、いくつもやっていらっしゃる(笑)。さらに多くの人が日本のワインの魅力に気づき、各地のワイナリーが発展していくために、これからも辰巳さんのご活躍に期待しています。今日は本当にありがとうございました。
■衣装
[辰巳さん]ジャケット 230,000円、シャツ 27,000円、チーフ 9,000円〈すべてランバンコレクション TEL:03-5213-2532〉
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