森脇慶子の「旬カレンダー」 Vol.6

香り、食感ともに魅惑的。夏に食す至極の一貫

※こちらの店舗は現在移転しており、掲載内容は移転前の情報です。

見るからにたおやかで初々しく、それでいて、どこかなまめかしいような艶やかさを秘めた小さなイカ――これが“新イカ”。大人の親指ほどしかない墨イカの赤ちゃんである。新子と同様、鮨通垂涎のこの逸品、以前は初秋を告げる味として、8月頭から末にかけてが旬と言われていたが、最近はひと月余りも早まってきているとか。

「うちでも七夕頃から、鹿児島出水港で揚がる新イカを握り始めます。ハシリは高価で鮨屋泣かせですが、その旬の短さ、新イカ特有の食感や味わいの妙を思えば、意地でも握りたくなりますね」こうきっぱりと語るのは、高橋青空氏。正統派の江戸前鮨を、独自の感性で握る数少ない鮨職人のひとりだ。

新イカにしても、サイズ、食感、温度、握り加減を細部にわたって気を配り、自ら納得のいく一貫に仕上げている。心持ちふんわりと握った一貫を頬ばれば、舌に触れる感触はきめ細やか、ややもちっとした柔らかさの中に感じる軽快な食感が独特だ。

「耳たぶのような柔らかさが魅力」と青空氏。旬を通して出水のそれを使い続けるのもそれゆえ。丸付け一貫が理想のサイズだ。

気鋭の若手と言われた高橋青空氏も今年で40歳。独立して7年目、それまでのシャープさに加え、どこか舌になじむ美味しさが増してきた。酒肴から握りに至るコースの流れも見事。華のある雰囲気も銀座らしい

●もりわきけいこ
美味の食べ歩きに日々邁進し、綿密な取材と豊富な経験に基づく記事で定評のあるフードライター。真の旬を伝えるべく、その時期とっておきの美味にありつける名店を紹介

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