2020.09.05
僕のカノジョは6個上 Vol.1落とし物
その日、透がいつものようにカフェを訪れると、彼女は外国人の男性と一緒だった。
-もしかして旦那…?
仲睦まじい様子から、そんな邪推をしてしまう。するとその外国人男性の後ろから別の女性が現れ、彼の肩を叩いた。
会話しているのが聞こえてくるが、何を話しているかは全く分からない。ボソボソとした話し声から、以前読んでいた本と同様に、フランス語のようだ。
しばらくすると、外国人男性と後から来た女性の2人は立ち上がって腕を組み、彼女に手を振りながら出て行った。
どうやら、あの2人がカップルだったらしい。透は、なぜかホッと胸をなでおろしていた。
−いや。だからといって、彼女が独身と決まったわけではない。ひとり勝手に何を喜んでいるのだろう。
そのとき、彼女がおもむろに立ち上がった。透が思わず目で追うと、視界の端でひらりと1枚の紙が落ちた。
拾い上げたその紙は名刺で、こう書かれている。
“日高 朱音”
裏にはアルファベットで、“Akane Hidaka”とあった。
ハッと顔を上げると、彼女はまさに店から出ようとしている。透は、自分のPCを急いで鞄に突っ込み、外に飛び出した。
ほんのわずかな時間だったはずなのに、次に見た彼女の背中は、すでに横断歩道の向こう側にある。
信号が変わってしまう前に追いつかなくては。透は、汗をかくことを厭わず走った。
「すみません。これ、落とされましたよ」
弾む息を整えながら、彼女の背中に向かって声を投げかける。
振り向いた彼女は、一瞬怪訝そうに立ち止まった。だがすぐに、透の手にある名刺を見て、驚いた顔に変わる。
「わあ、ありがとうございます」
改めて聞くその声は鈴を転がすようで、可憐な彼女にぴったりだと思った。
「全然気づかなかった…。もしかして、このために走ってくれたんですか?」
「いや、まぁ。大事なものだと思って…」
まさか、“あなたのことをカフェで見ていた”とは言えなかった。
クールに格好つけたいのに、さっき走ったせいで額から吹き出す汗が止まらない。この暑さが心底憎たらしいと思う。
「すみません。わざわざありがとうございます」
彼女は優しい手つきで、透の差し出した名刺を受け取った。
2人の間には数秒間の沈黙が流れ、透は焦っていた。このままでは彼女が立ち去ってしまう。このチャンスを逃すと、次に話しかけられるタイミングはいつになるだろうか。
不意に、透の口からこんな言葉が飛び出していた。
「あのカフェに、いつもいらっしゃいますよね?よくお見かけするなあと思って…」
「えっ…」
彼女はゆっくりと首を傾げた後で、気恥ずかしそうに肩をすくめた。
「あ、もしかして私、お店でうるさくして目立ってました?ごめんなさい、声が大きかったかな…」
どうやら完全に誤解をしているようだ。まさかその美貌に透が目を奪われていたとは、思ってもいないらしい。
透は慌てて、こう言った。
「いや、そうじゃなくて…。すごく綺麗な方だなと思っていたので…」
しまった。結局これでは、ただのナンパではないか。
そう後悔したのも束の間、彼女は突然、ケラケラと可笑しそうに笑いだしたのだ。
「こんなおばさんに、そんなこと言ってくれてありがとう。お世辞でも嬉しいです」
その言葉に驚いて、透はまじまじと彼女を見つめる。
−おばさん…?どこが…?
確かに自分よりはわずかに年上に見えるが、おばさんと言うほどでは全くない。
そして、さりげなく彼女の左手の薬指を見ると、指輪はなかった。
こうして透は、朱音と出会ってしまったのだ。これが、波乱万丈な恋の始まりだとも知らずに。
▶他にも:デートに1時間遅刻し、“ありえない姿”で登場した女。彼女を見るなり、男が放った一言とは
▶Next:9月12日 土曜更新予定
少しずつ距離を縮め始めた透と朱音だが、彼女は渋い顔をするばかり。その理由とは…?
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